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カリフォルニア州に拠点を置く金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した。昨年末時点の総資産は約2090億ドル(約28兆2000億円)で、米銀行の破綻では2008年の金融危機リーマン・ショック時以来、最大。金融危機以前を含めても2番目の規模。なぜ、SVBは破綻したのか。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、シリコンバレー銀行のグレッグ・ベッカー最高経営責任者(CEO)、ダニエル・ベック最高財務責任者(CFO)とマイケル・デシェノー頭取の経営トップの3人は、この10年、長期に及ぶ歴史的な低インフレと〝イージーマネー〟(超金融緩和政策)の波に乗り、同銀の舵を取ってきた。
だが昨年、世界が急変。連邦準備制度理事会(FRB)が、数十年で最も速いペースで利上げに着手したにもかかわらず、同銀行の経営陣はほとんどそれを無視し、金利が下がることに賭け、大相場の新興IT関連企業に狙いを定めた。
ベッカー氏は2011年からCEOを務め、シリコンバレー銀行を全米の大手20銀行の一つ(総資産16位)にまで育て上げた。他の銀行が金融危機後にリスクと思われるものから手を引く中、同銀行は、大きな可能性を秘めているものの利益が少ない新しいスタートアップ企業を積極的に引き受けた。
ベッカー氏は2019年当時、ポッドキャストで「私はいつも世界で一番クールな銀行の仕事しているとみんなに話している。シリコンバレー銀行では、世界で最高級にクールな多くの企業と取り引きをしている」と語っていた。
数年間はその戦略が功を奏した。
2020年にSVBの株価は54%上昇し、その翌年には75%急上昇したため、預金量も86%急増した。だが、同時に懐疑的な見方も浮上した。空売りデータを追跡するS3パートナーズによると、1年前には同社株の1.4%が弱気な投資家によって空売りされていたが、その数字は昨年末には6.7%に急増。昨年、SVBの株価は66%急落し、同銀行の最終取引日となった今月9日までの23年だけで54%の下落となった。
昨年はIT分野にとって困難な1年となった。FRBが急激に金利を引き上げたため、投資家はリスクを回避。仮想通貨の会社は破綻し、IPO市場は枯渇。ハイテク株の多いナスダックは33%下落した。これは2008年のリーマン・ショック以来最大の下げ幅となった。
それでもSVBは、金利が下がることに社運を賭け続けた結果、FRBの急激な利上げに伴う債券価格の下落で、保有していた米国債などに含み損が出ていたほか、利上げで取引先のIT関連企業の資金繰りが悪化したのを背景に、預金の流出が相次いだことも経営破綻につながった。
米財務省とFRB、米連邦預金保険公社(FDIC)は12日、SVBの破綻を巡り「全ての預金者を完全に保護する」との共同声明を出した。FRBが金融機関の資金繰りを助ける新たな仕組みをつくる。イエレン米財務長官は「銀行システムは引き続き耐久性があり、規制当局はこのような場合に有効な対応手段を持っている」と強調した。