2023-03-11 ライフ

「スイスの代表的な食べ物はセルベラ」

注目ポイント

スイスは多様性豊かな国である。そしてその特徴は料理にも表れている。昨年出版された書籍「Le patrimoine culinaire suisse(仮訳 :スイス・食の文化遺産)」では、それぞれの地域に根付く料理や風習を紹介する。スイスの食文化の特徴について、スイス食文化遺産協会のオリヴィエ・ジラルダン会長に話を聞いた。

「集大成」。本を閉じたあと、真っ先に思い浮かんだ言葉だ。661ページに及ぶ同書を執筆したのは、フードジャーナリストのパウル・イムホフ氏。何年もかけてスイスを横断し、農業や飲食業、その他の食にかかわる業界で活躍する人たちを訪問し、各地の図書館にまで足を延ばして情報収集した。その結果、一つ一つの食材に関する情報は詳細を極め、起源、歴史的背景、製造方法、そして消費されている地域などを網羅する。

スイス食文化遺産協会は政府の要請を受け、2005年から08年にかけて、各州、各業界の専門家(学者、歴史家、企業など)の協力のもと食材調査を実施し、作成したリストを定期的に更新している。同書は、このリストを一冊の本にまとめたもので、ねらいはスイス特産の食材を出来るだけ完全に網羅した全体像を把握することだ。食材リストに掲載するための条件は3つ。現在も消費されていること、40年以上の歴史があること、そしてスイスと密接に結びついていることだ。

450以上の食材が名を連ねる同書は、ただの食材目録ではない。これを読めばスイスとその国民性をより深く知ることが出来る。スイス食文化遺産協会のジラルダン会長は、伝統料理を知るということは、その国の歴史、地理、文化・風習に触れる旅のようなものだと述べている。

swissinfo.ch : スイス食文化遺産からは、スイスのどのような特徴が見えてきますか?

オリヴィエ・ジラルダン:スイスは、いくつもの地域が集まってできています。ヨーロッパの中心に位置し、複数の文化や国境が交差しているため、文化遺産がとても豊かです。この多様性は、料理にも反映されています。

スイスの食文化を見ると、何一つ無駄にせず、すべてを加工利用していた、かつての田舎生活を垣間見ることが出来ます。バリエーション豊かなチーズに加えて、ソーセージや干し肉なども種類が豊富で、食糧保存へのこだわりが感じられます。このような風習は、国土の大部分が山岳地帯で、冬には保存食しか食べられなかったことに関係しています。

swissinfo.ch : つまり、(スイスの伝統料理は)比較的貧しい国の田舎料理ということになりますね。ヴェルサイユ宮殿の宴からは、かけ離れているように思いますが……。

ジラルダン:その通りです。「田舎」と「貧しさ」という特徴がスイス食文化遺産の軸になっています。しかし同時に、スイスは工業国でもあり、それはこの文化遺産にモダンな一面を生んでいます。ネスレグループのような大企業の食品工場で生産される食材もあるのです。このような伝統的な食品の例としては、あの有名なセノヴィ(ビール酵母から作られたパンに塗るペースト)や子会社「トミー」のマスタードなどがありますね。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい