2023-03-10 政治・国際

訪米で「1歩後退、2歩前進」狙う台湾の蔡英文総統【近藤伸二の一筆入魂】

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注目ポイント

4月上旬に訪米予定の台湾の蔡英文総統は、滞在中、米下院議長との会談やレーガン記念図書館での講演などを調整中だ。実現すれば外交面で与党・民主進歩党の大きな得点となり、来年1月の総統選にも追い風となりそうだ。中国を過度に刺激したくない米側が下院議長訪台を見送ったことを受けての一手で、転んでもただでは起きない台湾のしたたかな一面が垣間見られるとともに、中国側の出方次第では両刃の剣となりかねない側面が懸念される。

台湾の蔡英文総統が4月上旬に訪米し、マッカーシー米下院議長との会談やレーガン元大統領の記念図書館での講演が実現すれば、与党・民進党は2024年1月の総統選で有利な展開が見込める。米下院議長訪台の再現という注目度の高い「突破外交」を諦める代わりに、中国が文句をつけにくいやり方で台湾の存在感を高めようとするしたたかな戦略が浮かび上がる。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、蔡氏は中米訪問を利用して米国に立ち寄り、西部カリフォルニア州と東部ニューヨーク州を訪れる計画だ。マッカーシー氏の選挙区であるカリフォルニア州で同氏と会談するほか、同州にあるレーガン元大統領の記念図書館で講演するという。

1月に下院議長に就任したマッカーシー氏は対中強硬派で知られ、「中国は私がいつ、どこに行くか指図することはできない」と述べ、訪台に強い意欲を示していた。

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マッカーシー米下院議長

中国は、昨年8月に当時のペロシ下院議長が台湾を訪問した際、台湾近海にミサイルを発射するなど、1週間にわたって大規模な軍事演習を実施した。大統領継承順位が副大統領に次ぐ2番目の要人である下院議長の訪台は、踏み越えてはならない「レッドライン」と警告した形だ。

米議会は現在、連邦政府の債務上限問題を議論しており、解決できないと、連邦政府は7月から9月に支払い資金が枯渇し、債務不履行状態になると試算されている。議会運営を預かるマッカーシー氏は、当面はこの課題に集中しなければならず、訪台するなら今年後半になるとみられていた。

台湾では、来年1月に総統選を控え、夏ごろまでに民進党や最大野党・国民党などの公認候補が決まる予定だ。今年後半は選挙戦が白熱する時期で、米下院議長が訪台し、台湾海峡が波立てば、民進党の選挙情勢にプラス面もあるが、マイナス面も大きい。

プラス面は、民進党に対する「横暴な中国と毅然と闘う党」とのイメージが強まる点だ。しかし、1年前にペロシ氏が訪台したばかりで、この時ほどのインパクトは期待できないとの見方が強い。

マイナス面は、野党が仕掛ける「民進党が勝てば、若者を戦場に送ることになる」というネガティブ・キャンペーンが現実味を帯びてくることだ。

蔡政権は昨年暮れ、18歳以上の男子に義務付けている兵役を2024年以降、現行の4カ月間から1年間に延長する方針を発表した。兵役延長について、民間シンクタンクの台湾民意基金会が行った世論調査では73%が賛成したが、兵役対象に含まれる20~24歳では36%にとどまった。この問題は「総論賛成、各論反対」の傾向が強く、選挙では若者やその家族の支持を得にくいとの指摘もある。中国が再び大規模軍事演習に踏み切ったり、圧力を強めたりすれば、野党のキャンペーンが切迫感を伴って浸透する可能性がある。

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