2023-03-10 経済

【北波道子の論点】令和の黒船・TSMCを鑑に日本の停滞を考える

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注目ポイント

熊本県菊陽町に半導体製造工場を建設中の台湾のTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)は、同地で今春入社見込みの大学学部卒初任給を28万円とするとしており、地元新卒給与相場にも影響を与えた。停滞する日本製造業にとってはまさに令和の黒船だ。人材確保のための高い給与水準を実現するためにも、今後日本は、単なる技術競争だけでなく、儲かるビジネスモデルの構築にも迫られそうだ。

日本の停滞浮き彫りに

2021年10月に、台湾のTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)が、熊本県に半導体の製造工場を建てる計画を発表した。加えて、昨年6月には2023年春入社見込みの大学学部卒初任給を28万円にすると発表した。これは、熊本県の2021年4月時点の平均大卒初任給、19万4443円の4割増しにあたるという(『日本経済新聞』2022年6月7日)。このTSMC日本進出のニュースは、今、日本が直面している2つの停滞状況に少なからぬ衝撃を与えている。そこには、日本で製造された半導体が再び世界のトップ争いに参入し、加えて30年間上がらなかったお給料がこれにつられていくらかでも上がるかも…、という期待もないわけではないが、日本の経済を全体的に考えた場合、事態はそれほど楽観的ではない。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的大流行)と、ロシアのウクライナ侵攻、そして円安と物価上昇によって、これまで見ないようにしてきた「停滞」の負の側面にスポットライトが当てられてしまった。TSMCの日本進出は、そんな我々にパラダイムシフト(発想の転換)を迫る出来事なのである。

 

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台湾、韓国、中国が世界のスマホ製造

2022年のはじめに、筆者は「日本の停滞と台湾の躍進」(『研究中国』2022年4月号)というタイトルで原稿を書いた。サブタイトルは「21世紀のハイテク産業から考える」である。ハイテク産業といえば、1980年代半ばに日本企業が半導体製造の世界シェアトップに躍り出て、1990年代には、DRAM(半導体素子を利用した揮発性メモリの一種)の生産では向かうところ敵なしの様相を誇っていた。

また、コンシューマエレクトロニクス(家庭用電気機械器具)製造においては、ウォークマンも、電子手帳も、パソコンも、携帯電話も、そしてゲーム機だって日本製が一番カッコ良くて性能が良いはずだった。しかし、スマートフォンという、電話とメールとパソコンと音楽プレーヤーと手帳とカメラとゲームマシンが一体になったものが急速に普及するときに、日本のメーカーは勝ち組には残れなかった。

2023年1月時点の世界の携帯電話(mobile phone)のシェアは、アップル27.63%、サムソン27.1%、シャオミ12.51%、オッポ6.4%、Vivo 5.26%、ファーウェイ4.62%である(StatCounter)。アップルのスマホを実際に作っているのはFoxconn(鴻海精密、2021年のシェアは70%、Reuter)という台湾のEMS企業なので、世界のスマホは現在、概ね台湾、韓国、中国企業によって製造されているといっても過言ではない。

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