2023-03-06 政治・国際

対台湾武器売却でエスカレートする米中対立

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

注目ポイント

米政府はこのほど台湾に対して6億1900万ドル(約840億円)もの武器売却を承認し、議会に通知した。中国の軍備が増強されるなか、台湾軍の防衛能力を高める狙いだ。同時に来年1月には総統選をひかえ、かつ「米国は最終的に台湾を見捨てるのではないか」という米国への不信感にもとづく「疑米論」が浮上する台湾社会に対し、「台湾海峡の平和と安定」を重視する米国を強く印象付けたい意図も垣間見られる。

米政府は3月1日、台湾に対する6億1900万ドル(約840億円)相当の武器売却を承認し、米議会に通知した。2022年秋に次いでミサイルが中心で、台湾軍の防御能力を高めるのが狙い。米国内では中国の台湾への武力侵攻時期が早まっているとの見通しも浮上しており、米政府は対中抑止力の強化を急ぐ方針だ。来年1月に総統選をひかえる台湾において、「疑米論」が浮上するなか、火消をはかる狙いもあるとみられる。

今回、米政府が売却を承認したのは、戦闘機F16に搭載する中距離空対空ミサイル「AMRAAM」200発や対レーダーミサイル「HARM」100発など。AMRAAMの台湾への供与は初めてで、台湾国防部(国防省)は「中国軍の戦闘機派遣が常態化する中、防空能力をレベルアップすることができる」と歓迎の意を表明した。

© Photo Credit: GettyImages

また、米国防総省傘下の国防安全保障協力局は、声明で「地域の政治的安定や軍事バランスの維持に寄与する」と強調。これに対し、中国外務省の毛寧副報道局長は「『一つの中国』原則に著しく違反するもので、断固反対する」と非難し、気球問題で関係が悪化した米中が、台湾への武器売却を巡って対立をエスカレートさせる事態となっている。

バイデン政権の対台湾武器売却承認は、今回で総額約30億ドル相当に迫る。22年秋には、対艦ミサイル「ハープーン」60発、空対空ミサイル「サイドワンダー」100発など計約11億ドル相当を承認した。ハープーンは台湾海峡を渡って来る中国艦船を狙うミサイルだ。

台湾への肩入れが目立ったトランプ前政権は、4年間で総額約180億ドル相当の武器売却を承認した。19年には、新型F16戦闘機66機(約80億ドル相当)の供与を認めている。バイデン政権はまだ金額ではトランプ政権に及ばないが、今後も台湾への武器売却を継続して進めていくとみられる。

その背景には、台湾有事に対する切迫感がある。1月には、米空軍で輸送や給油を担当する航空機動司令部のミニハン司令官が、台湾有事が25年に起こると予測して準備を急ぐよう指示したメモを同僚に送っていたことが、米NBCテレビの報道で明らかになった。

2月には、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が講演で、中国の習近平国家主席が「27年までに台湾侵攻を成功させるため、軍に準備を指示したことを把握している」と述べた。27年は習氏が異例となる共産党総書記3期目の任期を終える年で、人民解放軍創設100周年に当たる年でもあり、米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官らも同様の見解を示している。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい