2023-03-04 経済

協同組合は「鈍臭い」? 定説を覆すスイスの起業家たち

注目ポイント

スイスでは組織形態の選択肢として協同組合を選ぶ起業家も少なくない。多くは何らかの「理想」を実現するためだ。小売り、音楽、宅配の分野で成功を収める3人に、その理想を聞いた。

スイス経済において、協同組合は重要な存在だ。だが若い起業家が、あえて協同組合という形態を選ぶケースはまれだという。「協同組合は鈍臭い」からだ。

株式会社などと比べ協同組合は倒産が少なく、経済が不安定な時も安定している。だが共同組合の設立・運営機関「イデ・コーペラティヴ」が発表したレポート「協同組合モニター2020年」では、スイス国民の協同組合への信頼度は高い一方で、「あまり革新的ではない」と認識していることが分かった。

若い起業家も同様に感じており、このイメージが「起業のブレーキ要因」になっているとレポートは指摘する。お金を稼ぎたい人は、株式会社を設立するという。

今回swissinfo.chが紹介する3企業は、この流れに反し、あえて協同組合という形態を選んだスイスの新興企業だ。

参加型ショップ「ギューター」

参加型ショップ「ギューター(Güter)」は、ベルンの住宅街に店舗を構える。棚には食料品やサニタリー用品が所狭しと並ぶ。米やパスタを詰めた大型の容器が客の訪れを待っている。2人の組合員が新しく入荷した野菜の積み上げ作業を行っている。

冷蔵庫には、半額になった牛乳瓶が何本か入っていた。普通のスーパーマーケットと同じなのは、この安売りシールだけだ。スイスの小売業は、2大協同組合(ミグロとコープ)が市場を支配しているが、買い物の際に顧客がそれを意識することはまずない。一方、ギューターで買い物をする人は、その背景にある理想主義を意識せずにはいられない。この店では労働力を提供する人だけが買い物できるのだ。1カ月で約2〜3時間の労働が求められるという。

組合員が参加する動機は、その世界観にある。共同設立者のニコラス・ポール氏は、「私たちの目的は、経済の民主化に貢献することだ」と言う。こういった協同組合ならそれが実現できる上、「協力することがいかに素晴らしいか、自ら体験できる」と太鼓判を押す。

ギューターの特徴は、ボランティア労働で運営費を抑え、オーガニック食品の専門店と同様の品揃えを低価格で提供することだ。サニタリー用品など一部の商品ではこの仕組みが上手くいっているが、それ以外の商品ではあまり価格差が出せないという。仕入れ量が限られているのも大きな要因だ。現在、全商品平均でオーガニックスーパーより1〜2割程度安いとポール氏は見積もる。また購入した商品価格の1%は、同店で利用するクレジットとして低所得の組合員に寄付できる。

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