2023-03-02 政治・国際

【バック蓬莱】③ 地図に載っていない場所とは…

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注目ポイント

民主化が進むとともに世相も激しく変化した台湾社会。いつの間にか見なくなった日常の光景や人々の交わり方も。仕事や研究活動を通じて長年台湾と向き合ってきた筆者が、ほんの少しむかしの台湾の姿を掘り起こし、振り返ります。今回は1990年夏、台湾本島最南端・屏東一帯をバイクで旅した際、原発や軍事施設を目にした思い出から。

「止まれ!どこへ行く?」

断崖絶壁の上から眼下に広がるバシーの海を横目に、潮風を受けながらレンタルバイクで疾走していると、突然銃を持った二人の兵士に行く手を阻まれた。一人の兵士がワタシに話しかけ、もう一人はいつでも発砲できるような姿勢を今まさにとろうとしている。

30歳の誕生日は大好きな台湾で迎えよう、それも業務ではまず行かないだろう場所で、と、台湾本島最南端の屏東を選び、気分爽やかにツーリングを決め込んでいた。1990年の暑い8月のこと。

兵士らと遭遇した経緯はこういうことだ。現地では安宿(素泊まりの民宿)を探して投宿していた。その前夜は夜市に出かけ地元で採れる海産物を堪能した。部屋はある程度の期間宿泊者がいなかったのか、多少のカビ臭さに混じり、部屋に染みついた汗の臭いが充満している。ベッドクッションは相当固い。何せ1泊350台湾元、そこは我慢のしどころだ。

翌朝、宿のご主人(60代半ばくらいか)が「海水浴場が近くにある。泳ぐか?」と言われたが、あいにく水着の用意はしていないので「散歩してビーチでも見てくるよ」と出かけた。

海浜に出ると、「え!」思わずワタシは絶句した。そこで見たのは原子力発電所のすぐ目の前で、マリンスポーツに興じる人々の姿。

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原発との余りの距離の近さに衝撃を受けて宿へ戻り、ご主人に訊いた。「原発のすぐ横で水上スキーや水上バイクに乗ってる人が一杯いたよ。あれって危なくないの?」。

主人は応える「政府が安全言う。だから、大丈夫よ」。

確かに日本でも、例えば福井県の嶺南あたりでは原発を遠望しつつ美しいビーチで人々は海水浴などを楽しんでいるが、それにしたってここは距離が近すぎやしないか。

そりゃ台湾だから排水や廃棄物が適切に処理されていない、などといいたいワケではないが…。政治的にも賛否がわかれる原発のほんの目の前という環境で、海辺のレジャーを屈託なく楽しむ台湾の人々の姿、その対称的な光景のものスゴさに、1986年のチェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故などを機に、原発に潜む危険性を薄気味悪く思ってきたこの当時のワタシなどは、少なからず衝撃を受けたものだ。

う~ん…、そうだ、こんな時は気分転換にバイクで海岸線でも走ろう。

そもそもこの近辺で何軒かある民宿からここを選んだのは、レンタルバイクがあったからだ。台湾本島最南端の屏東だから、西・東どちらの海岸線も選択できる。走るルートを決めようと地図を眺める。あれ、屏東から東海岸の少し北側には道らしい道が描かれてない。どうなっているんだろうと好奇心がふつふつと湧いてくる。

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