注目ポイント
旅行先としては台湾人に人気の日本だが、就労先としてはどう映っているのか。TSMCが熊本県で建設を進めている生産拠点への赴任について、台湾人従業員の本音を探った。
米国と中国の覇権争いに際し、日本政府は半導体産業のサプライチェーンの安定を図るため、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)がソニーグループ、デンソーと熊本県で進めている半導体工場建設に、投資額約1兆1000億円の4割にあたる最大4760億円を支給する。米国アリゾナ州では2024年、26年の量産開始を目指して2つの工場建設も進んでいる。投資額は当初の3倍強、約5兆4000億円だ。
海外への進出にあたっては台湾からの人材の移動が伴う。TSMCの従業員が米国に赴任する場合、基本給の2倍が支給され、赴任者の子供は幼稚園から高校までの授業料がサポートされる。米国で3年間勤務した後、現地の工場従業員として配属を希望する場合はグリーンカードの申請もTSMCが支援する。
日本の熊本工場は、日本で新規に採用される新規採用者の初任給に注目が集まった。大卒28万円、修士修了32万円、博士36万円で、さらに4か月間の年末賞与が支給される。県内ではエンジニアの人材流出も懸念される好待遇ぶりだが、果たして当のTSMCの従業員たちは、どれほど海外赴任に興味を持っているのか。
台湾のTSMCで働くあるエンジニアは「海外へ赴任して台湾に戻ってきたら昇進しやすいかもしれないし、近い将来、台湾海峡で戦争が起これば一時避難所にもなる」と本音を明かす。
日本はもともと台湾人に人気の旅行先であり、税金や物価面でも米国より暮らしやすいことから「米国より日本への赴任の方が魅力」という声も多かった。
ただし、日本へ赴任する場合は言葉の壁がある。日本語能力検定試験で最難関のN1に次ぐN2合格程度の日本語レベルが最低でも必要だ。日本に憧れを持ち、日本語レベルの要件を満たしていても、配偶者や子供の生活圏の学習環境の変化を懸念して「簡単に日本へは行けない」というコメントもあった。
TSMCは熊本進出にあたり、子持ち赴任者への教育補助金の支給や、医療機関などをスムーズに利用できる環境作りに力を入れているという。赴任者同士のコミュニケーションの機会にもなる日本語コースも開設した。熊本、そして候補地がまだ明かされていない国内2つ目の工場稼働も視野に、今後もエンジニアだけでなくさまざまなポジションの人材を確保するための支援策が続く。
熊本県でも受け入れの動きが広がる。県広報によれば熊本市内のインターナショナルスクールや私立校ではすでに赴任者の子供が学びを始めている。来月3月には公立学校でも受け入れが始まる予定で、市教育委員会は外国籍の子供に日本語を教える日本語指導拠点校を拡充。九州ルーテル学校は2024年春を目指して「インターナショナル小学部」を設置する方針も発表した。異文化理解や日本語学習など多文化共生のための環境整備に、渋滞対策のインフラの整備も進められている。