2023-02-27 政治・国際

ロシア中銀資産 ウクライナ復興資金としてスイスは没収できるか?

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注目ポイント

ウクライナの復興資金に充てるため、凍結したロシア中央銀行の資産を没収する案を巡り、欧州で活発な協議が進んでいる。没収案には賛否両論あり、実現にはスイスを含む各国で多くの法的問題をクリアする必要がある。

ゴールドマン氏によれば主な障壁となるのは、国際法上、資金の没収が合法であるかどうかだ。外国中央銀行の資産は国際法で強制執行から免除されており、資産の目的が公的なものである限り没収できない。

ゴールドマン氏は、「資産を没収すれば、ロシアの免責特権を侵すことになるのか?侵略戦争のような重大な違反を犯した国家の海外資産が、それでも特権を享受できるのかは明確ではない」と言う。

ロシアに免責特権があると判断された場合、資産没収にはロシアの同意が必要となる。だがロシア政府はすでに、いかなる資産没収の試みにも対抗する構えがあると表明している。

前例はあるか?

ゴールドマン氏によれば、外貨準備の没収は国債の強制執行絡みで行われたケースがほとんどだ。

米国裁判所は昨年、ニューヨークで凍結されていたアフガニスタンの外貨準備のうち半分(約35億ドル)をジュネーブの信託基金に移すことを許可した。2021年8月にタリバンが復権して以来、アフガニスタンの人権状況は悪化しており、基金の一部は国民の支援に使われる。

≫解説:アフガンの凍結資産がスイスで基金になったわけ

ゴールドマン氏は、ロシア資産を巡る議論が進んでいることに加え、こうした判決が下されたことは、重大な権利侵害があった場合には免責特権が喪失するという慣習法のルールが生まれつつある兆候ともみられる、という。

国際金融の安定性に与えるリスクは?

ロシアの資産を没収した場合、一部の中央銀行が外国に資産を預けるのは高リスクだと判断する可能性を指摘する国もある。ゴールドマン氏もその可能性を否定しない。

「結果的に、金を自国に戻そうとする中央銀行が出てくることもあり得る」とした上で、「それは自国のリスク特性と状況によるが、この『ホームショアリング』が国際商取引の障害になることはないと思う」と述べた。

ロシアは残された全外貨準備の保全を図るとみられる。

「ロシアは誰も把握していない隠し海外口座を持っている。そこに預けた資金を、自国に移そうとするのは必至だ。だがロシアのような国の銀行にとっては、国外にいくらかの外貨準備を持つことは常に重要だ。自国通貨に何が起こるか分からないのだから」(ゴールドマン氏)

スイスがロシアの凍結資産を没収する可能性は?

ベルン大学のクンツ氏は、中立国であるスイスがロシアの資産を没収するとは考えにくいという。

「没収すれば、(中立の立場という)現状が大きく変わる」とし、「米国やEUだけではなく、国連が相応の制裁を科す場合にのみ、資産の没収が許容されるだろう」と述べる。だが、国連安全保障理事会でロシアが拒否権を持つことから、後者の可能性は極めて低いだろうと付け加える。

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