2023-02-25 政治・国際

ウクライナ侵攻から1年 スイスは戦争でどう変わったか

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注目ポイント

ロシアのウクライナ侵攻により、スイスはロシアの個人資産没収から自国の中立性の放棄に至るまで、これまで考えられなかったような様々な要求に直面した。だが安定が続いてきたこの国で、変化はどれほど現実的なのか。現状の分析と今後の予測をまとめた。

ロシアの資産

金融機関に眠るロシアの資産を没収し、ウクライナ復興に活用するという考えが議論されているが、スイスはまだ具体的には動いていない。ただ国内外での圧力が強まる中、連邦政府の態度に明らかな変化が表れている。スイスのイグナツィオ・カシス外相は1月、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、凍結されたオリガルヒ(新興財閥)の資産が「ウクライナ復興の資金源になり得る」と発言。だが、そのためには法的根拠と国際的な協力が必要だとも述べた。

どちらとも取れる発言ではあったが、スイスの金融業界をざわつかせるには十分だった。連邦内閣でリベラル派・急進民主党(FDP/PLR)代表のカシス氏は、そのわずか半年前までは資産没収に強く反対していた。ルガーノでスイスが主催したウクライナ復興会議で、「危険な前例になる」と発言していたのだ。

同氏の発言に変化が表れたことで、次の2点が明らかになる。

第一に、スイスが率先して動くことはない点だ。これは今に始まったことではない。特に金融業界が絡むと、スイスは一貫して守りに徹してきた。対ロシア制裁では、悩んだ挙句に欧州連合(EU)に追随した。欧米の機嫌を損ねず、同時に世界の資産が恣意性から守られているというスイスの威信に傷を付けたくない――。そんなスイスには、まるで綱渡りのようなバランス技が求められる。

第二に、政治的な要求と照らし合わせると一筋縄ではいかない法的状況が垣間見える。所有権は連邦憲法で保障されているため、ロシアの個人資産の収用には法的根拠がないとする見方がスイスの法律専門家の間では多数派だ。スイス政府も今月15日、ロシアの個人資産の没収は憲法と一般的な法秩序に違反するとの見解を示した。専門家グループによる報告を受け、声明他のサイトへで明らかにした。

公平を期すために言うと、他の西側諸国でも状況は進展していない。現時点では、カナダとクロアチアがロシアの民間資産をウクライナ復興に転用すると発表しただけで、それ以外の国はどこもまだ議論中だ。ウクライナはもとより、東欧諸国や米国からの風当たりも強い。ただ米国は、民主党が下院多数派を失ったため仕切り直しになりそうだ。少なくとも共和党が広範な収用を支持するかどうかは疑問だ。

スイスに対する国際的な圧力が強い背景に、この国にオリガルヒが密集していることがある。銀行家協会の推定では、約1500億~2千億フラン(約22兆~29兆円)のロシア人資産がスイスの銀行に集中しているという。連邦政府はこれまでに、制裁を受けたロシア民間人が所有する75億フランと不動産17個を凍結した。ちなみにEUで凍結された資産は、全加盟国の合計で約190億ユーロ(約2兆7千億円)だ。

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