注目ポイント
重度の麻痺で体が動かない患者が、脳からの信号をスマートフォンやパソコンに送ることで、意思疎通を可能にするブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)と呼ばれる技術が現実のものとなりつつある。米CNBCはニューヨークを拠点に、独自の最先端医療技術で世界から注目されるシンクロン社に焦点を当てた。
挿入するステントロード(Stentrode)と呼ばれるステント(人体の管状の部分を管腔内部から広げる小さな医療機器)には極小センサーが取り付けられ、脳の運動皮質を通る大静脈内に装着される。さらにステントロードは、胸部の皮膚下に埋められたアンテナを通して脳内データを外部デバイスに送信する仕組みだ。
同社のピーター・ヨー神経科学担当シニアディレクターは、「この装置は脳組織に直接挿入されていないため、受け取る脳の信号は完全ではない」と前置きしながらも、脳は異物との接触を嫌うため、同社の方法は患者に負担が少なく、利点が多いと説明した。
ヨ―氏はまた、「これらの処置を行うことができる専門医は(米国で)およそ2000人いる」とし、「例えば、脳神経外科医だけが行うことができる開頭手術や穿頭血腫除去術などと比較すると、もう少しすそ野が広い」と指摘した。
重度の麻痺や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの変性疾患の患者にとって、シンクロンの技術はタイピング、テキストメッセージ、さらにはソーシャルメディアへのアクセスなどを通じて友人や家族、外界とのコミュニケーションを可能にするものだ。患者は、シンクロンのBCI装置を使用してオンラインで買い物をしたり、自身の健康や家計を管理したりできるが、オクスレイ氏は「最もエキサイティングなのはテキストメッセージを送れること」だと断言する。
同氏は「テキストメッセージを送信できなくなることは、信じられないほど孤独だ」とし、「愛する人にテキストメッセージを送る能力を回復することは、非常に感情的な力の回復につながる」と指摘した。
2021年12月、オクスレイ氏は自身のツイッターアカウントを、手を動かすことも困難なALS患者フリップ・オキーフさんに譲った。その約20か月前、シンクロンのBCIを臨床試験の被験者として移植を受けていたのだ。オキーフさんは、「こんにちは世界!短いツイート。画期的進歩」とBCI装置を使って最初のツイートを発信した。
シンクロンの技術は、競合他社の注目を集めている。ロイター通信は、マスク氏が昨年、投資について話し合うため、同社にアプローチしたと伝えた。双方ともこの報道について、コメントを控えている。
マスク氏のニューラリンクは、すでに脳組織に直接移植するBCI装置を開発しているが、まだ人間への試験は実施しておらず、同氏は今年中には実現できることを期待していると語っている。