注目ポイント
重度の麻痺で体が動かない患者が、脳からの信号をスマートフォンやパソコンに送ることで、意思疎通を可能にするブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)と呼ばれる技術が現実のものとなりつつある。米CNBCはニューヨークを拠点に、独自の最先端医療技術で世界から注目されるシンクロン社に焦点を当てた。
3Dプリンターが並ぶニューヨーク・ブルックリンの研究所で、ブレイン・コンピューター・インターフェイスのベンチャー企業「シンクロン」の社員は、麻痺で苦しむ人たちの日常生活を一変する新たなテクノロジーに取り組んでいる。
「シンクロン・スイッチ」という装置を、脳の血管内に埋め込み、全身麻痺や部分的な麻痺という障害を持つ人たちが、脳の信号を使ってスマートフォンやパソコンなどの電子機器を操作できるようにするというものだ。この画期的な技術は昨年7月、米国で第1例目の移植が行われ、現在では米国で3人、オーストラリアで4人の患者に使用されている。
「患者とパートナーや、患者と配偶者の間で、以前よりも少し自立する能力を取り戻したことで、信じられないほどの喜びや、力が与えられる瞬間を目の当たりにしてきた」と、シンクロン社のトム・オクスレイ最高経営責任者(CEO)は、米CNBCとのインタビューで語った。
2012年に設立されたシンクロンは、急成長しているブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)産業の中でも特に注目を集める企業。BCIとは、脳の信号を解読し、それを外部テクノロジーのコマンドに変換するシステムだ。
おそらく、この分野で現在最も有名なのは、イーロン・マスク氏が創設したニューラリンク社だ。しかし、非現実的とさえ思える実験段階から、やがて開花する医療ビジネスへの進化に賭けるハイテク億万長者はマスク氏だけではない。昨年12月、シンクロンはマイクロソフト共同創業者ビル・ゲイツ氏の投資会社や、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏らの投資を含む7500万ドル(約1000億円)の資金調達ラウンドを発表した。
というのも、同社のアイデアを実現する土壌が整ってきたからだ。2020年8月、シンクロンは米食品医薬品局(FDA)による「ブレークスルーデバイス指定」を受けた。これは、生命にかかわる疾患などに対し、効果的な診断・治療を行う医療機器やデバイスのうち、従来にはなかった画期的な技術を用いているなどとして、FDAが認めた場合にのみ受けられる措置だ。その翌年にはFDAから「医療機器臨床試験免除」の指定を受け、昨年、患者に対し永久的に埋め込み可能なBCI装置を正式に移植した最初の企業となった。
多くの競合他社は、開頭手術によってBCI装置を移植する必要があるが、シンクロンの場合、数十年にわたる血管内治療技術に基づいて、患者への負担の少ないアプローチを採用している。オクスレイCEOが「自然のハイウェイ」と呼ぶ、血管を通じて脳内に挿入するのだ。