2023-02-24 政治・国際

【李世暉の天秤】日台関係は今や日本の国家戦略の一部に! 「経済安全保障」から考える日本、中国、そして台湾

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注目ポイント

コロナ禍による入境制限も緩和され、学術面でも日台間の交流が本格的に再開している。京都大学で経済学博士号を取得し、台湾における日本研究の人材育成などを担うシンクタンク「台湾日本研究院」理事長の要職にある李世暉・政治大学教授も、長い空白期間を経てこのほど来日。日本の各界要人と交流を深めた結果、「日台関係の進展は日本の国家戦略の一部になった」と実感したという。斯界の第一人者の目に「東アジアにおける経済安全保障」は、どのように映ったのか。

日本の経済安全保障政策について理解を深めるため、筆者は2023年1月中旬、東京を訪れた。自民党の前幹事長で経済安全保障推進本部の本部長を務める甘利明衆院議員をはじめ、日中台の関係に詳しい川島真東京大学教授らを訪ねるのが目的だった。経済安全保障政策についてそれぞれご見解をうかがった結果、特に印象に残ったのが、東アジアの経済関係において従来の「政経分離」や「政冷経熱」という概念が次第に説得力を失いつつあること、同時に日本と台湾の関係がもはや日本の国家戦略の一部になっていることだった。日本と中国が台湾関連問題(半導体サプライチェーン、CPTPPなど)においてどのように立場を表明し、主張し、調整していくのか、また日本と台湾がさらに戦略的協力基盤を形成していくのか。今回の訪日で得た成果をまとめてみた。

 

◆以前から存在した「経済安全保障」政策

さて2018年から始まった米中貿易戦争では、同盟国と技術サプライチェーン(供給連鎖)の情報を共有し、関連製品で相互補完することが大きな戦略の一つとなっている。

その一方で、米国は中国のサプライチェーンへの依存から解放され、もう一方では、中国の技術開発の進捗をコントロールしているのだ。 

2021年10月に就任した岸田文雄首相は、戦略的資源の不足と技術の流出に直面する日本にとって、強力なサプライチェーンと自律的な経済を構築する必要性を充分に認識していると見受けられる。

その証左として岸田氏は、「経済安全保障」の政策を提案し、日本の経済安全保障に関する資源や政策手段を統合し企画する「経済安全保障担当大臣」のポストを新たに設けた。

実は著者は以前から日本の経済政策や科学技術政策に関心を持っており、2016年にはその研究結果を自著「日本の安全保障を考える経済学的視点-経済安全保障の視点-」にまとめた経緯がある。

この本の中で筆者は、経済安全保障政策は比較的新しい政策だと見なされているが、その内容や意味はかなり以前から存在していたことに触れている。

日本は戦後、平和憲法の枠組みの中でかなり早期から経済的・技術的な外交手段を発達させてきた。この間の日本における「経済安全保障」の概念を検証してみると、大きく4つの段階に分けることができそうだ。

まず第1段階は、戦後間もない時期からオイルショックまで。この段階の主要な柱は「政府開発援助」(ODA)を中心とした日本企業の海外市場参入の拡大だ。

つぎに第2段階は、オイルショックから冷戦終結まで。日本へのエネルギーの安定供給と日本の海上貿易路の安全確保をTES(Total Economic Security)により実現することが主眼であった。

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