2023-02-22 政治・国際

ハイテクで「医療制度に改革を起こす」スイスのスタートアップ

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注目ポイント

スタートアップ企業ライフジェン(本社バーゼル)の目標は、患者や保険会社が薬に余分な支払いをしなくてよくなることだ。ギリシャ・フェルナンドCEO(最高経営責任者)(33)は、同社が開発した技術でこの目標を実現できると確信する。

さらに、数か月間にわたり投与される抗がん剤の費用を、従来のように月々の請求書で支払うのではなく、一部の患者は1度に210万ドルもの支払いが求められるようになる。しかもその薬が特に長期的に見て有効だという保証はない。このようなリスクを背景に、保険者はこの新しい治療薬をそもそも支払うべきなのか、もし支払うのであればどう支払うのか、頭を悩ませている。

「このような1度の投与で効果のある治療に関する製薬業界のビジネスモデルは、従来と全く異なる。そして現行の払い戻しシステムは、このような治療に対応するようには設計されていない」とフェルナンド氏は話す。臨床試験中の新薬候補(パイプライン)には、千以上の細胞や遺伝子治療が並ぶ。そのわずか一部が市場に出回るだけでも、今後10年で医療費他のサイトへの負担は米国だけで3千億フラン(約42兆円)増加すると予想されている。

政府が薬の保険適用を拒否した結果、製薬会社が市場から撤退すれば、不利益を被るのは患者だ。既にブラジル、英国やその他の国ではこういったことが現実となっている。今から2年前、ボストンに本社を置くブルーバード・バイオは、ベータサラセミアと呼ばれる血液疾患向けに1回で効果のある遺伝子治療「ジンテグロ」を開発したが、ドイツ政府が180万ドル(約2億3千万円)という法外な価格を保険に適用することを認めなかったため、欧州市場から撤退した。

健康保険は何年も前から「価値」を基準とした契約の導入を議論している。つまり、生活の質が向上する日数、入院回数の減少といった指標を価格や払い戻しシステムに反映させるというものだが、実現する方法がなかった。

「医療制度に1千万ドルの負担がかかる患者が治るなら、薬に350万ドル出しても構わないのではないか?そうすれば650万ドルの節約になるが、それを計算する方法がなければこのケースの価格を正当化するのは難しい」(フェルナンド氏)

ライフジェンのプラットフォームは、契約書をデジタル化し、病院の実際のデータを組み込み、AIのアルゴリズムを使って薬の効果を調べ、一定の条件下での適正価格を調べることで、この問題に取り組んでいる。このプラットフォームはまた、何千、将来的には何百万もの保険契約書を分析し、特定の薬や保険者にとってどの支払いモデルが妥当かを探し出す。

例えば、製薬会社は30日以内に患者に効果が現れなければ全額返金することに同意することもあり得る。

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