2023-02-22 政治・国際

ハイテクで「医療制度に改革を起こす」スイスのスタートアップ

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注目ポイント

スタートアップ企業ライフジェン(本社バーゼル)の目標は、患者や保険会社が薬に余分な支払いをしなくてよくなることだ。ギリシャ・フェルナンドCEO(最高経営責任者)(33)は、同社が開発した技術でこの目標を実現できると確信する。

スポーティで今人気の白いヴェジャのスニーカーを履き、ブレザーの胸ポケットにはチーフを挿している。リスクを冒してでも現状を変えることを教えてくれた両親の教育方針に感謝していると言う。

内戦中のスリランカから脱出した家族に連れられ、3歳の時にスイスにやってきた。難民収容施設での生活を経て、両親は最終的にバーゼルで職を見つけた。母は教師として、父は小さなバイオテック企業で働いた。

「両親は全てを捨てて家族のためにここで新しい生活を始めなければならなかった」と振り返る。

現地校とインターナショナルスクールの両方に通い、現地の子供と製薬会社幹部の外国人の子供のどちらとも友達になった。英語、バーゼル方言、標準ドイツ語、フランス語を巧みに切り替えて話す生活だったという。スイス農薬大手シンジェンタでインターンシップをし、在学中から製薬大手ロシュで働き、ロシュ最年少の役員誕生への道をまっしぐらに歩んでいた。

しかし29歳の時、世界の製薬大手での待遇の良い仕事を捨て、スタートアップ企業の創業者という不安定な生活を選ぶ決意をする。リスクを冒すに値するひらめきを与えたのはロシュだった。同社が個別化医薬品に重点的に投資を始めた時、フェルナンド氏はIT部門で価格設定と市場参入を支援する仕事をしていた。

同氏はそこで、薬代の払い戻しのプロセスが極めて非効率的で、大量の医療データを処理しなければならないが、ゾルゲンスマのような個別化医薬品が市場に出てくると、事態は一層悪化する一方であることに気づいた。

医薬品の支払い方法を刷新する必要があり、それにはテクノロジーが欠かせない。そう確信した同氏は2018年末、共同設立者のニコ・ムロス氏とミシェル・モーラー氏と共に、ライフジェンを創立。バーゼルの裕福な一家から調達したシードステージの資金と自たちの貯金を元に、医療・金融・テクノロジーという各自の知識を統合した新興企業が誕生した。

システムを変える

同社はまず、費用を負担する保険者と製薬会社の間で行われる慣習的な会計取引で生じるコストの削減に着手した。しかし真のチャンスは、フェルナンド氏が「価値」と呼ぶ基準を組み込んだ新しい支払いモデルの構築にあると同氏は考える。

従来、保険会社や病院は薬の投与回数や量に応じて製薬会社に支払い、薬に効果があったかどうかは考慮されなかった。しかし治療薬が1億円を超える現在、支払う側も慎重になってきている。既存の治療法と比較して、患者の健康状態の向上という点で、その薬に価格に見合う価値が本当にあるのか疑問視するようになったためだ。

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