注目ポイント
クレディ・スイス(CS)の2022年決算は失望感の大きい内容だった。大規模なリストラを進めるなか、もはや経営に一分の隙も許されなくなった。
信用損失は、今のところCS決算では貴重な喜ばしい数字のようにみえる。年間の貸倒引当金はわずか1600万フランだった。しかしこれまた他の凶兆を伴っている。まずこの数字にはアルケゴス事件(信用残高が焦げ付き、CSは総額50億フランを超える損失を被った)で必要になった引当金1億5500万フランが加味されていない。リスク見直しにより他の歴史的な破綻を最小限に抑え、スイスは主要ローン残高リスクが低いと知られていても、現在の世界の経済情勢を踏まえると、信用損失は一方向にしか動いていない。
5つ目の悲惨な数値は、CSが起死回生をかけて元取締役のマイケル・クライン氏に支払った2億1千万フランだ。助言会社として優良企業や大型投資家との関係を築いてきたクライン氏がMクライン&カンパニーの投資銀行部門をCSに売却したことは異例の出来事だった。クライン氏は現在、再建した投資銀行部門クレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)の経営を担っている。その評価額が1億7500万フラン(1億フランの転換社債の予想利子を含めると2億1千万フラン)とされている理由は不明だ。利益相反は「統制されている」とCSは繰り返し保証しているが、この案件は悲惨なものに見える。ある取締役は、CSFBの経営権と部分的所有権を渡され、現金7500万フランを手に入れたという。
ところで、赤字続きのCSの10~12月期の収益は6割近く落ち込んだ。債券売買が84%、株式は96%減った。投資銀行部門を縮小しているとはいえ、これは6つ目の悲惨な数字に挙げられる。
投資家は、10~12月はCS の成否を分ける四半期になるとみていた。CSはなんとか乗り切った。だが進行中の大規模リストラやマクロ環境の難しさを踏まえると、もはや事故を起こす余地は全くない。
著作権:The Financial Times Limited 2023
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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