注目ポイント
カプセルトイで中身のわからない「シークレット」は人気があるが、風景にもそんな隠された驚きがあるのをご存知だろうか。 次に台湾を訪れた際には、ぜひ路地裏を歩いてみることをお薦めする。そこには古い建物が残っており、洗い出しの壁や色とりどりのタイル、飾りブロックなど、昔なつかしい趣ある建築工法が見られるからだ。とりわけ窓の外側に取り付けられた「鉄窓花」(鉄の飾り面格子)は、模様にさまざまな工夫が凝らされ、当時の職人たちの遊び心が感じられる。
文・鄧慧純 写真・老屋顏工作室 翻訳・松本 幸子

Facebookページ「老屋顔」の開設者である楊朝景と辛永勝は、2013年から台南を皮切りに路地裏の散策を始め、古い建物の細部に施された細工に魅了された。デザインはさまざま、しかも年月を帯びて魅力を増し、古き良き時代を思い起こさせるようなものだった。そこで二人はそれらを撮影し、ネットでシェアした。

「鉄窓花」を探して
楊朝景と辛永勝は、歴史や建築を学んだわけではない。北部暮らしの長かった台南出身の辛永勝は、友達を誘って台南に戻り、いっしょに路地を歩いてみたのだ。「町の風景はとても魅力的で、まったく異なる世界に来たようでした」
「最初は単なる旅の記録として撮影していたのですが、ふと気づくと撮ったのは鉄窓花の写真ばかりで、それなら、いったいどれほど種類があるのか整理するつもりで集めてみようかと…」と楊朝景は笑う。「でも後でそれは無理だと気づきました。種類が多すぎて、それに同じ種類だとしてもバリエーションが多く、まったく新しい図案に変化しているのです」
鉄窓花がなぜそれほど多くあるのか、登場したのはいつ頃なのか、防犯以外に何か意味づけはあるのだろうか。
鉄窓花が大量に出現したのは、1950~1970年代だった。「猛スピードで家が建てられていた時代で、最も興味深い時期です。ただ、それらを研究した文献は非常に少ない」楊朝景と辛永勝は、地道に一つずつ歩いて回り、それらの背景を調べるしかなかった。
個性的なデザインの鉄窓花には、必ずそれにまつわる物語がある。家の人がちょうど在宅なら、必ずその鉄窓花について尋ねてみた。そのデザインが家主の職業と関係のある鉄窓花も多かった。眼鏡組合の顧問は眼鏡の形の格子にしていたし、音楽の先生はバイオリンやピアノ、ギターなど楽器の形に、或いは自分の会社の商標やロゴを入れる場合もあった。そうした訪問では、「いったん打ち解けると台湾人の人懐っこさで、話が終わっても『食事して行け』と言われたり、果物やお茶を出してくれたりするし、窓に置いていた物をわざわざどけて撮影させてくれたりもしました」と、楊朝景は言う。
老屋顔工作室が出版した『老屋顔與鉄窓花』では、彼らの印象に深く残った鉄窓花として鹿港の民家のものが紹介されている。一つは、鹿港の名所「十宜楼」と「半辺井」を形取った鉄窓花で、立体感や遠近感を出す工夫がなされていた。ほかにも、娘と旅したフランスの思い出にとパリ凱旋門をデザインした鉄窓花もあった。これらの鉄窓花は家族の記憶であり、暮らしとともにあるものなのだ。