注目ポイント
1平方メートル400万円――スイスのアルプスに建つ高級不動産が記録的な高値に値上がりしている。購入するのはイギリスや北欧の富豪たちだ。外国人向けの優遇税制に加え、パンデミックや世界情勢の悪化がスイスの魅力を高めた。
2020から2022年にかけてはロンドンからの移住者が多く、ロシア人は2000年代と比べて減少した。ウクライナにおける戦争を受け、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)は経済制裁の対象となっている。
高級不動産専門会社SPG Oneのマキシム・デュビュス社長は、ロンドンからの移住者が増えた背景をこう説明する。「英国のEU離脱(ブレグジット)、経済悪化他のサイトへやインフレを背景に、ロンドンに住む様々な外国人富裕層がスイスへの移住に踏み切っている」
同氏によれば、ジュネーブを拠点とする外国籍の商品取引トレーダーも、巨額のボーナスをスイスでの不動産購入費に充てて永住するという。
チューリヒにあるリンデマン法律事務所は、ロシア語圏出身者(ロシア、ウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタン)から多くの依頼を受ける。設立者のアレクサンダー・リンデマン弁護士は「スイスに定住を希望するロシア語圏の顧客は、何年も前からEU市民権もしくはスイス居住権を持つ人が大半だ」と説明。「我々の助言を受けて用意していた緊急時用の代替策が、ウクライナ紛争で結果的にとても役立った」
同氏によれば、低い税率に惹かれた企業家たちも、欧州全土やスカンジナビア諸国からスイスに押し寄せている。単独で来る場合と会社ごと移動する場合の2パターンがあり、家族を伴うケースもある。こうした企業家はフィンテックや仮想通貨業界で活動し、多拠点で生活している。
スイスの魅力を支える「一括税」
スイスの税制で特徴的なのが、「一括税」(支出に基づく課税)と呼ばれる優遇措置だ。外国からの富裕層が対象で、スイス国民は対象外だ。納税者の資産ベースではなく、スイス国内での支出に基づき課税されるシステムとなっている。
著名な一括税納税者には、実業家のパトリック・ドライ氏(フランス・イスラエル国籍)や、スイスの製薬会社フェリング・ファーマシューティカルズ設立者フレデリック・ポールセン氏(スウェーデン)がいる。2017年に他界したフランス人ロック歌手のジョニー・アリディも、2006年から2013年までベルン州のグシュタードに居を構え、納税者に名を連ねていた。
現在、一括税納税者数は全国で推定5千~6千人で、大部分がフランス語圏に居住する。フランス語圏のスイス公共放送(RTS)が引用した州税務署の統計によると他のサイトへ、最多はヴァレー(ヴァリス)州で、該当世帯は1千世帯近くに上る。
スイスでは州によって税率が大きく異なる。税負担が最も大きいのはフランス語圏の州、ベルン州およびバーゼル・シュタット準州だ。しかし、一括税の対象者は減りつつあるようだ。