2023-02-16 経済

70億円のスイスシャレー 外国人富裕層が買うワケは

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注目ポイント

1平方メートル400万円――スイスのアルプスに建つ高級不動産が記録的な高値に値上がりしている。購入するのはイギリスや北欧の富豪たちだ。外国人向けの優遇税制に加え、パンデミックや世界情勢の悪化がスイスの魅力を高めた。

15部屋、バスルーム12室、屋内プール。トンネルでつながったゲスト用の離れと、従業員の事務所兼住宅。それはまるで豪華ホテルだ。ヴァレー(ヴァリス)州のアルプス地帯クラン・モンタナにあるシャレーは、親戚が一堂に会せるようにとフランス人が2010年代に建てたものだ。照会ベースでのみ開示される販売価格は、5千万フラン弱(約71億円)と推定される。

このシャレーの販売管理を担う高級不動産仲介業者バーンズ・スイス(Barnes Suisse)のジェローム・フェリシテ会長は、「不動産需要は現在とても活発で、特に山岳地方で記録的な高値に達している」と話す。

山岳地方の物件は今、山間部で暮らせる裕福な外国人の間で一番人気の「ベストセラー」だ。スキーリゾート地ヴェルビエがあるヴァレー(ヴァリス)州の基礎自治体ヴァル・ド・バーニュでは、過去2年間に人口が4%増加し、1万530人に達した。

同自治体のアントワーヌ・シャラー副書記は「短期滞在者の定住が増加の主な要因だとみている」と説明。新たに定住したのは「新型コロナウイルスを機にテレワークのため山地に滞在していた人たち」で、「シャレーで仕事をしながらも、自然やアウトドアを楽しむことが可能だと気づいた」と分析した。

希少な物件の買い手には英国やスカンジナビア諸国、さらにはスイスの顧客も名乗りを上げる。ヴェルビエは、不動産価格が史上最高値を更新。スイスの高級不動産サービス企業ネフ・プレスティージ・ナイト・フランクが発表した「2022年スキーリゾート物件報告書」他のサイトへによれば、1平方メートル当たりの価格は1年で8%上昇し、2万8千フラン(約397万円)近くに到達。

スイスで数千万フランの住居を購入する外国人は往々にして、そこを本宅にする意思がある。つまり、年間180日以上をスイスで過ごすため、滞在許可証の取得が可能となる。滞在許可証があれば、国外に住む外国人の別荘購入を制限する「コラー法(Lex Koller)」の対象とはならない。

ジュネーブで会社役員を務めるベネディクト・フォンタネ弁護士は「実際のところ、不動産の購入と滞在許可証はセットになっている」と話す。裕福な外国人が本宅として暮らす住居をスイスへ買いに来る場合、通常は弁護士事務所が滞在許可証の取得を当局と直に交渉する。

移住の波はロンドンから

昔から富裕層にとっての隠れ家的存在だったスイスは、今も裕福な外国人を魅了してやまない。スイスに移住する富裕層の中心は、依然として欧州連合(EU)の市民だ。「代表的なのは自身の事業の一部を売却した働く現役世代で、平穏な場所で生活を送りたいと望んでいる人たちだ」(フォンタネ氏)

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