2023-02-16 政治・国際

ウクライナへのロシアの大規模攻撃が始まる 捕虜が語る人海戦術で「犬死」させる意味とは

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注目ポイント

ロシアによる侵攻から1年を迎える来週を前に、ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、ウクライナ側が警戒してきたロシア軍の大規模攻撃について、「既に段階的に始まっている」と述べ、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も同様の認識を示した。だが、その内容とは人海戦術で、ロシア軍は意図的に自軍の戦闘員を大量に「犬死」させているというのだ。その意味とは―。

NATOのストルテンベルグ事務総長は13日の会見で、「ロシアはウクライナにより多くの部隊や兵器を送っている。新たな攻勢に着手している」と述べた。ウクライナ軍によると、東部ドネツク州の要衝バフムト周辺の16集落が爆撃を受けたとしている。

だが、今後さらなる展開が予想されるロシア軍の大規模攻撃について、英国防省は先週、「ロシア軍は攻撃のための弾薬と機動部隊は不足している」とし、米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)やロシアの強硬派の間でも作戦を疑問視する声が出ている。

一方、ウクライナ国防省幹部は「今年の春や夏に東部や南部の戦線を補強するためにロシアは1月、30万~50万人を徴兵しようとした」とし、ロシア軍が侵攻をやめる意図はないとの考えを改めて示した。

とはいえ現実は、その場しのぎで徴集された多くの戦闘員は、十分な訓練や装備もないまま最前線に送られ、文字通り「犬死」しているという。ウクライナ側は先週、7日だけで1030人のロシア兵が死亡し、昨年2月24日の侵攻開始以来、1日の死者としては最高で、ロシア兵の死者は総計で13万3190人になったと発表した。

米紙ニューヨーク・タイムズは今週、「味方の被害は甚大~ロシア侵攻で犠牲になった命」との見出しで特集記事を掲載。その中で、訓練もろくに受けないまま戦場に送られ、ウクライナ軍の捕虜になった元服役囚の戦闘員たちが、いかに自分たちが無防備のまま指揮官によって突撃を命じられ、鉄砲玉として使い捨てにされたかを暴露した。

捕虜になったセルゲイと名乗るロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」の二等兵は、ウクライナ西部リビウの収容所で同紙の取材に応じた。セルゲイは、自分が所属していた分隊は元囚人10人で構成されていたとし、戦場ではわずか数十メートル進んだところで、ウクライナ軍による「機関銃の集中攻撃を浴びた」と語った。

1人の兵士は撃たれ、「助けて!助けて下さい!」と泣き叫んだが、助ける者はいなかった。結局、分隊の8人が死亡し、1人は後方に逃げ戻り、自分は捕虜になったと話した。

ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアがウクライナ東部での新たな攻勢に打って出る中、これらの戦闘員が軍事戦略の不可欠な要素となっていると指摘する。ほとんどは経験が浅く、訓練が不十分な徴集兵で構成され、死傷者の割合が非常に高いにもかかわらずだ。

その意味は2つあるという。一つは大量の〝捨て駒〟として人海戦術を展開し、その後に控えた正規軍の熟練部隊が進撃するというもの。もう一つは、このような戦闘員を意図的に敵の攻撃目標にさせ、攻撃してくるウクライナ軍の正確な位置を特定するというものだ。

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