2023-02-17 政治・国際

【小笠原欣幸の視線】総統選にも影響必至!米国は台湾を見棄てるという対米不信「疑米論」が広がる背景

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注目ポイント

この1年ロシアのウクライナ侵攻に揺れた国際社会は、延長線上に台湾海峡を想像し、周辺の動静を注視の的としてきた。だが当の台湾では、これまで特に安全保障面で頼りにしてきたはずの米国に対する見方に微妙な変化が生じているという。「当てにしても、最後は見捨てられる」という疑念だ。「親米」の台湾ではこれまで主流ではなかった見方が、ここへきて急にネット上などで目につくようになった背景とは。

中国が発信しているストーリーは「米国は自分の血は流さず、ウクライナ人を戦わせてロシアを抑え込もうとしている」、「台湾は、米国を頼ったって最後は見棄てられる、それでいいの?」というもので、台湾有事の際の米軍介入を明言しない米国の「あいまい戦略」も逆手にとられている。

また、昨年米国が発表した台湾向け武器の中に地雷敷設車両の売却が含まれていたことも、(上陸した中国軍の進軍を阻む軍事的合理性はあるが)「自分たちの街に地雷を施設するのか」という驚きにつながり、「疑米論」を補強する材料に使われた。

加えて、米国の識者・専門家のさまざまな見解が発信されていることも悪影響につながる。米国は公開で活発な議論を戦わせて自国戦略を形成していくのだが、対台湾政策に関してもさまざまな見解(例えば台湾を軽視する意見や極端な悲観論)が示されると、台湾では一喜一憂につながったり、中国の情報戦に使われたりする。

さらに指摘すれば、昨年の地方選挙において政権与党が中途半端な形で「抗中保台」を持ち出し、その説明の信頼性を損ねたことも影響したといえる。内政での信頼感の低下は対米対中政策の信頼感にも影響する。馬英九政権がそうであった。

 

© GettyImages 台湾決起集会

Ⅲ 2024年総統選挙への影響

台湾総統選挙の勝敗を決める争点は、①台湾のあり方②中国、米国との関係、の2つに絞ることができる。2024年選挙では、②の比重がこれまで以上に大きくなりそうな情勢だ。

「疑米論」も重要な争点になるのは間違いないが、さらに進んで選挙戦を決める争点になる可能性もある。単純化していうと,「疑米論」がこれ以上広がれば国民党の勝利につながるし、「疑米論」の広がりが抑えられれば与党・民主進歩党の勝利につながる。

選挙戦はこれから始まる。民進党の頼清徳副総統は,蔡英文路線によって台米関係が非常に密接になり国際社会での台湾への関心もかつてなく高まったことをアピールし、「疑米論」の打ち消しに務めている。

国民党は誰が候補になるかまだわからないが、外交の基本的な路線は、蔡政権の対米一辺倒を修正し(どの程度修正するのかは候補によって異なる)、中国との対話によって活路を見出すというものになるであろう。

中国が台湾への圧力を強めれば「逆効果」になるというのがこれまでの総統選挙のパターンであった。しかし、「疑米論」が広がれば「悪いのは米国」となる。これまでのパターンが通じない選挙になるかもしれない。

米国は、台湾で「疑米論」が広がることを当然警戒する。「疑米論」に立つ国民党よりも民進党政権の継続の方が望ましいと考えるであろう。だが、米国が丁寧に説明をしなければ「疑米論」を打ち消すのは難しくなる。例えば、マッカーシー議長が台湾を訪問し中国が大規模軍事演習をしたとして、訪台が米国向けパフォーマンスであったと解釈されればマイナスになる。逆に、米議会が超党派で台湾支援の強い決意を固めた証ときちんと説明できればプラスになる。米国が台湾に向けて「ワンボイス」(一致した政策)を打ち出せるのかがカギになるであろう。

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