2023-02-17 政治・国際

【小笠原欣幸の視線】総統選にも影響必至!米国は台湾を見棄てるという対米不信「疑米論」が広がる背景

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注目ポイント

この1年ロシアのウクライナ侵攻に揺れた国際社会は、延長線上に台湾海峡を想像し、周辺の動静を注視の的としてきた。だが当の台湾では、これまで特に安全保障面で頼りにしてきたはずの米国に対する見方に微妙な変化が生じているという。「当てにしても、最後は見捨てられる」という疑念だ。「親米」の台湾ではこれまで主流ではなかった見方が、ここへきて急にネット上などで目につくようになった背景とは。

次に台湾のケーブルテレビ局・TVBSが2月9日に発表した調査結果を見たい。これも「疑米論」に直接かかわる。「あなたは、台湾が、米国が中国に対抗するための駒になることを心配していますか?」という質問である。その回答は、「心配している」44%▷「心配していない」42%▷「意見なし」14%-であった。

「台湾が米国の駒になる心配」は拮抗しているが、「心配」つまり「疑米」の方がわずかに上回っている(図2)。

このTVBS調査では、「米議会のマッカーシー下院議長が台湾を訪問したら、あなたは歓迎しますか?」とも聞いている。答えは、「歓迎する」56%▷「歓迎しない」23%▷「意見なし」20%-であった。台湾民衆はマッカーシー議長が来るといえば歓迎するが、やはり深層心理は複雑である。昨年8月のペロシ議長の訪台とは雰囲気が変わる可能性がある。

以上の基金会とTVBSの民調から、「疑米論」がじわりと広がっていることが確認できる。次にその要因を議論したい。

 

© GettyImages ウクライナ戦争

Ⅱ 「疑米論」が広がった要因

これはいくつかの要因がからみあった現象と見るべきである。

  1. 以前はあまり心配していなかった中国の軍事侵攻への警戒感が以前よりは上がった。
  2. 米国の武器売却・台湾支援が以前より積極的になったことが、逆に、米国は、兵は送らず武器だけ送って台湾を戦わせる意図だとの疑問につながった。
  3. ウクライナ戦争の長期化で、戦争の悲惨な現実がよりリアルに見えてきた。

①②③は連動している。

 

台湾の軍と政府は常に中国の武力侵攻を警戒し備える一方、台湾の民意の多数派は「中国は台湾に軍事侵攻できない」と考え、このバランスによって台湾社会は冷静さを保ってきた。だが、台湾が冷静でいるのに日米欧から危機をあおる発言が相次ぎ、微妙に台湾の世論に影響を与えている。

台湾の安全の後ろ盾となるのが米国の軍事力であり、米国が台湾の安全に以前より積極的になったことは台湾としては歓迎すべきことで、安心材料である。ところが、ここでウクライナ情勢が影響してきている。米国がウクライナに大量の武器を提供しつつも米軍は出さないことは専門家が見ればまったく理解できることだが,一般民衆は国際政治をいちいち考えるわけではない。米国は台湾有事に対しても、「武器だけ送って兵は出さないのではないか」という疑念がウクライナ戦争後広がりやすくなった。

そして、そのウクライナは強大な軍事力を持つロシアを苦戦させているのだが、台湾への影響は時間の経過とともに変化した印象がある。当初はウクライナ人の抵抗が英雄視され、多くの台湾人が「自分たちもやれる」と勇気を得た。しかし、昨年末から「ロシアの侵攻からやがて1年」という国際メディアの報道が相次ぎ、台湾でもすぐに転載されるのだが、その映像は、停電で暗く寒さで凍える中で多くの人が傷つき死んでいる現実を伝えるものだ。国際メディアはロシアの非道を伝えているのだが、それを見た人の中で「万が一にも戦争になったら大変だ」という気持ちが広がるのは人間の自然な反応だ。それが「中国に対抗してもろくなことにならない」という中国発の情報戦にぴったりはまる。

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