2023-02-15 ライフ

熊川哲也さん 「バレエは普遍的な形式美」

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注目ポイント

ローザンヌ国際バレエコンクールで審査員を務めた熊川哲也さんが、swissinfo.chのインタビューに応じた。バレエ界の変化、ハラスメント問題、若手ダンサーへのアドバイスに関して、意見を聞いた。

swissinfo.ch:スイスでは最近、ローザンヌ、チューリヒ、バーゼルのバレエ学校で、元生徒による教師のパワーハラスメント告発が相次ぎ、大きな議論を呼んでいます。厳格な指導を受けるバレエ界でのハラスメント問題には、どのように対処し、どのような解決策があると思いますか。

熊川:まず、基本的な人権は守ってあげないといけないと思います。きちんとバレエの範囲内で収まるよう心がけ、当然個人的な攻撃はしてはいけません。パーソナルな問題に発展しないことが大切だと思います。

ただ、ハラスメント問題は、訴える人の主観がどこなのかが分かりづらいという事実もありますよね。

昔の指導からの過渡期、移行期であるとはいえるのだと思いますが、過去の時代では当たり前であったことを今ピックアップされても、ちょっとフェアでないとは感じます。それを言い出したら、戦争中、戦後の日本の教育はどうだったか。それを経て、僕らの親世代である団塊世代から、団塊ジュニアという世代に移行してきたわけです。

バレエ学校を率いる世代もいま、僕らの世代に移行している時期ですから、この時代になって当たり前になったことを、前の世代にも当てはめ非難するのは無理があると思います。

バレエは、フィジカルなものですから、身体的接触やセクシャルは当たり前に作品に現れます。また、振付家や指導者がダンサーに指示を出し、ダンサーはそれに従い踊るという基本構図がありますから、そこに疲れが出やすいのかもしれないですね。

swissinfo.ch:スイスのバレエ学校では、スタジオにカメラを設置して先生を監視し、ハラスメントを防止する案も出ていますが、そうすると厳しく叱ることもできなくなります。ダンサーにとって有益で学びやすい環境は、どのように作ることができると思いますか。

熊川:ロシアなどの伝統的なバレエ教育は、折檻もありますし、体型にも厳しい基準が設けられるのが当たり前。そういった環境がバレエ大国を生み、そこから発信される芸術は崇高です。ただ、その厳しさが実を結び、恩恵に恵まれる人はごくひと握りで、それ以外の人は傷ついて去らざる得ない。数だけピックアップすると、傷つく数の方が多いかもしれないですが、頂点を目指す人にとっては必要な環境。バレエ芸術自体が大変過酷な芸術であるがゆえの複雑な問題だとは思います。

swissinfo.ch:最後に、若いダンサーの方たちに何かアドバイスはありますか?

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