2023-02-14 政治・国際

対立激化でも高まる米国の「中国依存」【近藤伸二の一筆入魂】

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注目ポイント

米国と中国の貿易額が2022年、過去最高を更新した。貿易戦争の渦中で輸出入が増える背景には、米国や同盟国・友好国と中国の間で広がるデカップリング(切り離し)は安全保障にかかわる分野などごく一部でしか進まず、IT関連機器からプラスチック製品まで「世界の工場」として効率的な生産を可能にする中国への依存から抜け出せない構造がある。

米中のモノの貿易額が2022年、過去最高を更新した。双方はもう数年も多くの製品に制裁関税をかけ合う「貿易戦争」の火花を散らしているのに、なぜ輸出入が増えるのか。背景には、製造業で国境を越えた分業体制が定着する中で、中国が生産基地としての地位を確立し、他国・地域が容易に取って代われない現実がある。

米商務省が2月7日発表した貿易統計によると、22年通年の中国との輸出と輸入を合わせた米国の貿易額は6905億ドル(約91兆円)に上り、これまでで最も多かった18年の6587億ドルを上回った。輸入額は5367億ドルで、18年の5385億ドルと同水準。輸出額は1538億ドルで、過去最高を記録した。貿易収支は3829億ドルの赤字となった。

輸入品目別では、玩具やプラスチック製品などの比率が高まった。輸出品目別では、大豆やトウモロコシなどの穀物類の比率が上がったのに対し、航空機や宇宙関連は下がった。

米国はトランプ政権時代の18年7月、巨額の対中貿易赤字を問題視し、制裁措置第1弾として、中国から輸入する産業機械や電子部品など818品目(年間輸入額340億ドル相当)に追加関税25%を課した。中国は米国から輸入する大豆、自動車など545品目(同340億ドル相当)に25%の追加関税をかけて対抗した。

その後、米国の制裁措置は第4弾まで発動され、対象製品は3700億ドル相当に膨れ上がった。だが、米中は19年12月、中国が対米輸入を2年間で2000億ドル積み増しすることや、知的財産権の保護を強化することなどを約束した「第一段階合意」を達成。これを受け、米国は第4弾で予定していた品目のうち輸入額が1位のスマートフォンと2位のコンピューターを含む1600億ドル相当に対する追加関税は見送った。

21年1月に発足したバイデン政権は、産業界の負担を軽減するため、一部の追加関税を廃止した。深刻さを増すインフレ対策として、広範囲にわたる中国製品の関税引き下げや撤廃を求める声が強まったが、対中強硬姿勢を続けるバイデン政権は大半の追加関税を維持している。

さらに、バイデン政権は、ハイテク関連を中心に対中輸出規制の厳格化に乗り出した。22年12月には、輸出禁止先に指定した中国企業・団体を633社に拡大。日本とオランダにも両国が強みを持つ半導体製造装置の対中輸出禁止を要請し、日本政府は今春にも規制に踏み切る方針だ。

このように米国や同盟国・友好国と中国の間でデカップリング(切り離し)が広がっていけば、相互依存関係は弱まるはずだ。しかし、専門家は「デカップリングは安全保障にかかわる分野などごく一部の分野で、しかも限られた地域でしか進まない」(三浦有史「脱『中国依存』は可能か」中公選書)と指摘する。

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