2023-02-09 政治・国際

徴兵制度は本来、軍事奴隷制の一種であり、日本は 「本人の意に反する苦役」という憲法に違反する国家的行為とみなしている

© Reuters/ 達志影像

注目ポイント

「世界に奴隷制度が存在してはならない」ことは、多くの人が同意することだが、実 際には徴兵制度の本質は「合法的」な奴隷制度であり、多くの国で徴兵制度の合憲性 が模索され続けている。台湾では、兵役に関する主な意思決定者であるはずの国会が 、全ての決定を「プロフェッショナル」な国防部に押し付けている。この場合はどの ような問題が発生するのか?

≪まとめ≫国体と国家主権を守るための代償は何か?
歴史的に見ると、徴兵制度は一般的な選挙権を伴うことが多い。原因は他でもない、国家の権力者が大衆民主主義の流れに屈し、一般国民に選挙権を与えなければならなくなった際に、徴兵制度によって、選挙権を獲得した国民を、既存の権力体制に忠実かつ、愛国的で従順な「良き国民」に育てようとしているためである。アドルフ・ヒトラーは、軍隊は同時に、祖国の教育を普及させるための、国民学校でなければならず、軍隊が戦力を維持するために、十分な兵士を確保することは、確かに徴兵制度の目的であるが、唯一の目的ではないと考えた。国家の軍事政策に協力し、軍事的公共性の社会に対する侵蝕を支持する、「無私の愛国心」を持った「従順な
市民」の量産も、徴兵制度の重要な目的であると考えた。


近代の国家にとって、大規模な常備軍は同時に、大きな財政負担となる。 志願兵の給与がわずかであっても、兵士の数が増えれば、国にとっては依然として軽視できない出費となってしまう。しかも、人々が全員兵士になったら、資本家が「利益を獲得」できるように、工場で製品を生産する役割は誰が担うのか?


現代の戦争では、直接戦闘に従事する軍隊の兵士の数よりも、「銃の後」で国の戦闘能力を支えるために必要な人数の方がはるかに多い。国家の観点からは、軍隊が国そのものを押し潰してしまうような規模に、常備軍を無限に拡大することはできない。しかし、忠実で愛国心の強い従順な国民は、権力者にとって多ければ多いほど良い。国慶節祝賀大会での三軍楽儀隊(マーチングバンド)の派手なライフルトスが目を引くこの文章で筆者は、徴兵制度は本来、軍事奴隷制の一種であることを指摘している。徴兵制度は多くの国で合法的な奴隷制度であるが、日本においてはそうではない。筆者は、台湾国民も、日本国民と同様に、奴隷的拘束や、本人の意に反する苦役に制限されない自由を持つべきだと信じている。日本の法律では、徴兵制度を「本人の意に
反する苦役」という憲法に違反する国家的行為とみなしており、非常に傾聴に値する。
 

さらに、国民を代表して行政権を監視し(単に「抑制と均衡」するだけではない)、権限を行使しなければならないはずの国会が、現状のように兵役政策の形成において、傍観者の役割に落ちぶれてはならない。兵役政策の形成において、国会が主な意思決定者になるべきだ。「国民の兵役に関する重要事項は、立法者が法律を定めるべきである」ことを実践するときは、「国会が立法し、行政機関に決定権を与える」という形式的な要求にとどまらず、国会が実質上、兵役政策の形成において、主導権を取り戻すようにするべきである。さらに、我々は安全保障化による、民主法治国家の原則に対する侵蝕を許してはならない。
国体と国家主権を守る代償として、国家が自らの立憲民主主義を破壊することを許すのであれば、我が国と、国家の権力者が主張する「台湾人の自由で民主的な生活様式を脅かす独裁的な侵略者」とは、名前を除けば一体何が違うのか?「独裁者から民主主義を守る」という空虚な論述は、国民の目をごまかす自己欺瞞以外に、何の意味があるのか?
 

筆者は田中芳樹氏の長編小説シリーズ「銀河英雄伝説」の忠実な読者であるため、最後にシリーズ第3巻「雌伏篇」のセリフで、本文を締めることを許していただければと思う。「古来、多くの国が外敵の侵略によって滅亡したといわれる。しかし、ここで注意すべきは、より多くの国が、侵略に対する反撃、富の分配の不公平、権力機構の腐敗、言論・思想の弾圧にたいする国民の不満などの内的要因によって滅亡した、という事実である。社会的不公平を放置して、いたずらに軍備を増強し、その力を、内にたいしては国民の弾圧、外にたいしては侵略というかたちで濫用するとき、その国は滅亡への途上にある」(田中芳樹「銀河英雄伝説〈3〉雌伏篇」)。

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