2023-02-09 政治・国際

徴兵制度は本来、軍事奴隷制の一種であり、日本は 「本人の意に反する苦役」という憲法に違反する国家的行為とみなしている

© Reuters/ 達志影像

注目ポイント

「世界に奴隷制度が存在してはならない」ことは、多くの人が同意することだが、実 際には徴兵制度の本質は「合法的」な奴隷制度であり、多くの国で徴兵制度の合憲性 が模索され続けている。台湾では、兵役に関する主な意思決定者であるはずの国会が 、全ての決定を「プロフェッショナル」な国防部に押し付けている。この場合はどの ような問題が発生するのか?


国防部長邱氏が立法院外交及国防委員会に出席この行為は国民の基本的権利(4か月と1年の兵役はどちらも徴兵制度とはいえ、軍の中に閉じ込められる期間の差は、当然ながら義務を課される当事者にとってはとても大きな差である)に重大な関係のある兵役期間の延長について、立法者自らが政策形成の決定権を放棄したといっても過言ではない。議会は、国民が官僚の決定を自分たちの決定と取り違えるためだけに存在する機関、というフリードリヒ・ヘーゲル氏の意見
を、柄谷行人氏が挙げている。少なくとも今回の兵役期間の延長を決定する場面において、台湾の国会はヘーゲル氏が挙げた通りの、自己欺瞞な議会と大差ないように思われる。


兵役政策の形成における国会の傍観者化は、自然的に近代立憲主義の現代的変容(樋口陽一氏の言葉)という一般的な現象と結びついている。昨今、学校で「三権分立」の概念を学ぶとき、行政権と立法権の関係を説明するために「抑制と均衡」という言葉がよく使われるが、一見平等に見える「抑制と均衡」という言葉は、立法権と行政権の当初の関係ではない。
近代立憲主義が始まった当初、立法権=国会の地位は行政権よりも高く、行政権は国会の意向をそのまま受け入れる行政機関に過ぎなかった。日々の社会の複雑化、専門分業化、大衆民主主義の到来や時代に伴う行政機関の肥大化により、行政権の地位は止まることなく上昇し、一方で立法権の地位は低下し続けてた。さらに、行政権は直接民主主義と組み合わせることで(カール・シュミット氏が指摘したように、直接民主主義と独裁制の組み合わせは不可能ではない)、国会に対抗できる「民主的正当性」まで獲得した。


国会の地位の格下げは、世界中の民主主義国家でよく見られる現象である。しかし、国会は理論的には社会全体の縮図であるべきだ(いわゆる「社会学的な代表」)。台湾の現行制度では、少数政党が議席を獲得する可能性が閉ざされているとしても、勝者総取りの選挙で選ばれる大統領よりも、数多くの政党で構成されている国会の方が、社会全体の世論を代表しているはずである。
しかし、兵役政策の形成における国会の傍観者化は、単に民主主義国家によく見られる現象である、立法権の地位低下の結果なのか?恐らくそうではない。2022年12月26日の「聯合報」の報道によると、国民党立法委員の馬文君氏は、「兵役は国家の安全に関することであり、専門的に考慮すべきもので、法律や政治の問題ではない」、「立法委員は国軍(中華民国国軍)が何を必要としているか、必ずしも知っているとは限らない」と考えているそうだ。つまり、馬氏は立法委員でありながら、立法院が兵役政策の決定権を持つべきではないと考えており、兵役政策の判断に「法的、あるいは政治的考慮」が含まれてはならないとさえ主張している。

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