2023-02-09 政治・国際

徴兵制度は本来、軍事奴隷制の一種であり、日本は 「本人の意に反する苦役」という憲法に違反する国家的行為とみなしている

© Reuters/ 達志影像

注目ポイント

「世界に奴隷制度が存在してはならない」ことは、多くの人が同意することだが、実 際には徴兵制度の本質は「合法的」な奴隷制度であり、多くの国で徴兵制度の合憲性 が模索され続けている。台湾では、兵役に関する主な意思決定者であるはずの国会が 、全ての決定を「プロフェッショナル」な国防部に押し付けている。この場合はどの ような問題が発生するのか?


なぜICCPR第8条第3項では、「軍事的性質の役務」が、この条の意味における「強制労働」ではないことを、明確に規定しなければならないのか。その理由は簡単で、「軍事的性質の役務」は本質的に「強制労働」の一種であるため、「強制労働」の禁止の例外として明示しなければ、「軍事的性質の役務」は「強制労働」の範囲に該当するからである。


つまり、この規約は、特定の配慮から「軍事的性質の役務」の違法性を排除するように設計されているのである。ところがこれは「軍事的性質の役務」が本質的に「強制労働」ではないことを意味するものではない。それどころか全く逆で、「軍事的性質の役務」は本質的に「強制労働」であるが、規約では特別にその違法性を排除し、「合法的な強制労働」とした。

要するに「軍事的性質の役務」は「合法的な奴隷制度」であることを除けば、実は広義的な意味では一種の奴隷制度である。「合法的な奴隷制度」は、たとえ「合法的」であっても、奴隷制度であることに変わりはない。

ICCPR第8条第3項がいう「軍事的性質の役務」の典型例の1つは、もちろん徴兵制度である。多くの国が兵役義務を「国家の神聖な義務」として美化して久しいが、それでも国民を強制的に軍事組織の一員とし、国家の主権のために殺し、殺されることを強制する徴兵制度が、本質的に軍事的奴隷制度である事実に変わりはない。
徴兵制度の憲法における問題に関する日本政府の見解徴兵制度は本質的に軍事的奴隷制度であるが、ICCPRが「軍事的性質の役務」に対して免罪符を与えているように、世界の多くの民主主義国家は徴兵制度を違憲の悪行とは考えていないのである。
とはいえ、すべての民主主義国家がそうであるわけではない。戦後の日本の憲法学界では、ほぼ全員一致で徴兵制度は違憲と考えられていただけでなく、1980年には日本政府も近代の人権法では許されないとして、徴兵制度の違憲性を公式に発表している。この徴兵制度の合憲性に関する日本政府の見解は、異議を唱える箇所がないわけではないが、その内容は現在の台湾で生活する私たちにとっても参考になるものである。


1947年5月3日の日本国憲法施行以来、日本には(名目上の)軍隊が存在しない。しかし、憲法施行後すぐに保守政権による再軍備が始まり、1954年には軍事組織として自衛隊が設立された。自衛隊は創設以来、完全志願制をとっているが(ただし、日本では経済的徴兵制ーeconomic draftという流れも日に日に出てきているが、本稿の議論の範囲外である)、多くの日本国民も徴兵制度に反対している。しかし、日本では数年に一度、徴兵制度を押し広めるよう主張する保守派、右派が登場する。1980年、当時の関西経済連合会会長で住友金属工業会長だった日向方齋氏が、金融関係のイベントで徴兵制度に関する研究と検討をすべきだと訴え、社会的に大きな争論となった。同年8月、当時の鈴木善幸内閣は、世論の議論と批判に応えるために、徴兵制度は違憲であるという政府見解を発表した。

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北海道に駐屯する自衛隊の機甲師団
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