注目ポイント
台湾人女性と結婚し、長年台湾在住のライターとして活躍してきた広橋賢蔵氏が、このほど台湾での帰化が認められた。日本人が自らの意志で「TAIWAN」(中華民国)パスポートを取得したいま、脳裏には中台両岸の関係の複雑さや、日本で帰化した台湾系華人らが、再び「台湾」(中華民国)籍を求める心理の背景などが明滅。一方で菊花紋章のパスポートに加え、真新しい緑のパスポートを手にした高揚感もあるという。中国大陸の「台湾同胞証」も次なるターゲットに…
台湾海峡の渡航が自由になり、中国でビジネスを展開するために居住する台湾人は、最大で200万人と言われていた。その数は総人口の1割弱だ。この緊密度は尋常ではない。もし台湾と中国が衝突して臨戦状態になったら、これらの人々は台湾へ戻ることもままならなくなる。こういったところも、台湾と中国が、そうそう戦争などを安易に引き起こしてはたまらない理由でもある。
意地悪な知人は筆者に「台湾同胞証を持っていたって、中国政府からの通達ひとつで、中国大陸のあちこちでイヤがらせを受けそう。入管やチェックポイントで台湾人だけ故意に待たせることもあるそうですよ。だいたい、いつの日か中国によって統一されることになったら、このパスポートも意味がなくなって、中華人民共和国の人民になることを選択させられるんですよ」と話すのだが、それはそれで、ごもっともなことだと思った。
放棄した籍を回復する台湾系華人
一方、前回でも触れたが、「二重国籍」問題で糾弾された蓮舫氏のように、台湾で生まれてまもなく、日本で暮らすようになった台湾人や、台湾人の親の元で、日本に生まれ育ったハーフの台湾人の「国籍」問題は複雑だ。
作家の東山彰良さん、歌手の一青窈さん、俳優の余貴美子さん、タレントの渡辺直美さんなど、台湾にルーツを持ち、日本で活躍する人も多くいる中、蓮舫氏のように幼少期から2つの国籍を持ち、本来なら成人に達したら、どちらかを選択する手続きをするべきなのだが、成人になっても両方のパスポートを保持し続けている「二重国籍」者は少なくない。
私自身の帰化手続きの間、横浜の台湾人の知り合いなどにも帰化の相談をしたが、日本に移住した人の中には、帰化せずに、中華民国の身分のまま、日本政府が発行する居留ビザで滞在している人々が多いことを知った。理由は、自分のルーツを断ち切りたくないからだろうか。台湾も表向きは「二重国籍」を認めないので、日本に帰化する際は「中華民国」籍を返還しなくてはならないのだ。
裏ワザもある。「国籍回復」である。「中華民国」(台湾)籍を離脱し、いったん日本人に帰化した後、やや期間をおいて、筆者と同様の手続きをし直して、再度「中華民国」(台湾)籍を取り戻すのだ(一部の手続きは、より簡略化されるものと聞くが)。
ご苦労なことだな、と生まれ故郷にこだわる執念に感心したが、彼らにすれば「制度的に持てるものなら、いただいておいた方が、都合がいい」という損得勘定が働くのだろうか。