2023-02-08 政治・国際

日本の同性婚合法化の動きにアジアも注目【近藤伸二の一筆入魂】

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注目ポイント

1日の衆院予算委員会で、岸田首相が同性婚法制化について慎重な姿勢を示したことを発端に、首相秘書官だった荒井氏の差別発言など、政権の人権感覚の貧しさが露呈している。性的少数者への理解を増進する法整備が動き出したが、2021年には自民党がLGBT法案の了承を見送った経緯もあり、現在も同党内には根強い反対論がある。G7で唯一同性婚を合法化していない日本。アジアで唯一同性婚を認めている台湾では、日本の後進性を指摘する論調も見られる。

日本でLGBTQなど性的少数者への理解を増進する法整備が動き出した。荒井勝喜・元首相秘書官の同性婚に対する差別発言に国際的非難が高まったことから、岸田文雄首相が2月6日、自民党の茂木敏充幹事長に法案の検討を進めるよう指示した。同党内には根強い反対論があり、法案成立は見通せないが、アジアでもLGBTQの権利保護の機運が高まっており、日本の動向に注目が集まっている。

一連の騒動の発端は、岸田氏が1日の衆院予算委員会で、同性婚法制化について「国民の家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁したことだった。この答弁を巡り、荒井氏はオフレコ前提の記者団とのやり取りの中で、「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」などと発言。発言内容が報道されたことで、首相は4日に荒井氏を更迭し、「不快な思いをさせた方々におわび申し上げる」と陳謝した。

荒井氏の発言に対しては、英BBC放送が「日本は伝統的な男女の役割や家族の価値観に縛られ、性的少数者を傷付けた」と厳しく指摘するなど、海外メディアは批判的に伝えた。国連のグテレス事務総長のドゥジャリク報道官も「誰を愛し、誰と一緒にいたいかを理由に誰も差別されてはならない」(『毎日新聞』電子版2月7日)と述べるなど、世界と日本の価値観の違いが浮き彫りになった。

NPO法人EMA日本によると、2022年10月現在で、世界で同性婚を認めている国・地域は33に上る。欧米が中心でアジアでは台湾だけだが、タイでは同性婚を認める「婚姻平等法案」が下院で審議されており、法案成立の可能性が出ている。インドでも3月に最高裁が同性婚の法的妥当性について審理することになっており、これを機に法制化が進展するとの見方もある。

台湾では19年5月、立法院(国会)が同性カップルによる婚姻登記を認める特別法を可決、蔡英文総統の署名を経て発効した。同性婚合法化には保守的な市民団体や宗教団体などが猛反発していたが、司法院大法官会議(憲法法廷)が17年5月、同性婚を認めないのは自由と平等に反し違憲との判断を下したことで、法制化への道が開かれた。

同性婚合法化については、蔡氏もツイッターに「新たな歴史をつくり、東アジアに進歩的な価値が根付いたことを示す」と書き込むなど、支持を鮮明にしていた。世論が割れるテーマだったが、トップの姿勢が実現を後押しした形となった。

今年1月には、内政部(内務省)が法解釈を変更し、台湾人の婚姻相手の国・地域が同性婚を認めていない場合でも婚姻届を受理することにし、日本人と台湾人のカップルにも適用されることになった。

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