注目ポイント
幼い頃の記憶では、祖母のコートからはいつもうっすらと樟脳のにおいが漂っていた。それは、普段は着ない「よそいき」の服で、ずっとしまわれていた衣類の証拠だった。この香りは、かつて台湾が樟脳王国であった時代につながる。 百年前の苗栗の大湖に、茶や樟脳などの物資を運ぶ「老官路」という山道があった。全国の優れた教師に与えられる師鐸賞に輝いたこともある彭宏源は、この「老官路」を探し当て、その再現に貢献した人物だ。今は古道の草を刈って整備したり、ガイドを務めるなどして、その歴史を伝えることに情熱を注ぐ。
呉文星によれば、かつてクスノキの伐採のために漢人が山に分け入ったことで、原住民との衝突が頻発した。老官路沿いの義和村と魯林村の境界には、大正6年(1917年)設置の、警察の所轄を表す石の境界標が残っている。また栗林村と新開村にも、原住民との衝突などの史実を記した石碑がある。高所を制するために置かれた武器保管場所は今では展望台となっており、遠く関刀山や鯉魚潭ダムが見渡せる。
客家の村に行くなら、客家の信仰を集める伯公の廟や祠は必ず訪れたい場所だ。民家や大樹の下、路傍、あぜ道、岩(霊石)、祠、廟の中などに祀られ、いずれも芸術が感じられる。

伯公廟で建築芸術を鑑賞
「合計238座の廟や祠、340体の伯公があります」これは、彭宏源が大湖地区全体を調査して得た数値だ。大湖郷大窩地区では「伯公遍路」ができる。老官路の北口から大寮村の大窩橋を渡ると、そこから約4キロ内に10座に及ぶ伯公廟がある。そのうち大寮村大窩12鄰にある伯公は、古い祠を鉄筋コンクリートの祠で覆ったもので、廟の中に祠がある形になっている。12鄰には現代アートのインスタレーションも置かれているが、その傍らにあるセンダン樹の伯公は石室の祠で、石屋根の四隅に反りがあり、供物台も石造りの素朴な祠だ。
大寮村の亀山福徳(伯公)祠は、やや派手な造りになっている。大きなガジュマルの木の下にある祠の中に伯公の位牌が祀られ、反り返った屋根や祠の扉にはレリーフが施されている。一般の廟に見られるような瓦や装飾をきちんと備えた屋根で、古式豊かな石板の供物台や、神を拝む際の膝置きも石造りだ。
三両三停駐車場から約1キロの範囲にはいくつかのスポットがある。客家語の有名な歌「客家本色」の作者である涂敏恒の旧宅、ほかにも伝統建築三合院の家屋や、近年設置された現代アートのインスタレーションを見て回ってもいい。陳履献などの開拓者たちが石を削って造り上げた幅60センチの灌漑用水路「穿龍圳」は、台湾でも数少ない保存状態のよい水路で、いにしえの開拓の苦労や知恵がしのばれる旧跡だ。
苗栗の大湖は農業の里であり、イチゴやナシの産地として知られる。近年は台湾原産のナシに接ぎ木して改良が盛んに行われている。例えば「宝島甘露梨」は人の顔ほどの大きさで、きめ細かな多汁の果肉を持つ。ちょうど中秋節の頃に収穫を迎えるので贈答品として人気があり、この小さな山村に豊かな実りをもたらしている。またお年寄りたちが農作の休憩時に口にする油柑も、自治体によって栽培が促進されている果物だ。