2023-02-15 政治・国際

月イチ連載「山本一郎の#台湾の件」第11回:台湾と日本を巻き込む「半導体戦争」にみるトゥキュディデスの罠

注目ポイント

先月末、米軍空軍大将が内部メモで、2025年までに中国が台湾に侵攻し、米中戦争が起こりうると警告したことが報じられました。歴史の中で何度も繰り返されてきた覇権国家と新興国家による競り合いが行き着く場所はどこなのかーー山本一郎さんの月イチ連載です。

古代ギリシャ時代の紀元前5世紀を生きた哲学者で歴史家のトゥキュディデスは、戦争でやらかして国外追放されるなどして客観的に世界状況を観察するようになると、覇権国と新興国の間に避けられない抗争状態に陥るという逸話「トゥキディデスの罠」の元ネタとなった人物です。そのころは、強力な陸軍で地域覇権を持つランドパワーのスパルタと、海運と通商で栄え始めた新興のアテナイとの間で最終的に70年にも及ぶペロポネソス戦争が勃発し、最終的にはスパルタの勝利で終わるわけですが、歴史の教訓は今回の世界帝国アメリカと、台頭した中国との間での問題が映し鏡となり、その米中対立の下で翻弄される地域国として台湾や日本などが困惑しているというのが現状です。

ハーバード大学の教授・グレアム・アリソンさんが来日した際に、まさにこの逸話をベースに対話を促進せよと言い、まさに台日間での平和共存と戦争の抑止の呼びかけを中国とアメリカ双方に働きかけることは大変に重要なことです。それはもちろん戦争なんてしたところで最終的にお互い嫌な思いをするだろうし、また、先日の香港やかつての朝鮮戦争・ベトナム戦争でも見るように郷土戦になるとかなりの消耗戦を強いられて、戦争を仕掛けた側も守る側もボロボロになります。「ひとつの中国原則」なのか「『ひとつの中国』政策」なのかは当事者にとっては重要な問題にせよ、それによって運命を翻弄される側は面倒なことこのうえありません。


米中の衝突 対話で避けよ 米ハーバード大教授 グレアム・アリソン氏|日本経済新聞


そんななか、昨年10月に『Chip War』が、タフツ大学フレッチャースクール准教授のクリス・ミラーさんから上梓されました。改めて、世界の付加価値と生産性を支える半導体と、その裾野に関する業界がいかに世界の重要物資となっているのかを認識させられます。高集積分野に限っては台湾勢はなんと9割弱、台湾系半導体メーカーがこの米中対立のヘソとなって重要物資を生産する一大拠点となっていることは重視されるべきことです。


Chip War: The Fight for the World's Most Critical Technology


中国が台頭し、米中の間でのハイテク技術の差が縮まりつつあり、人工知能(AI)など特定の分野では中国のほうがアメリカより秀でているのではないかと言われるようになれば、当然覇権維持のためにアメリカも中国の伸長に対して警戒感を超えた意識を持つのは当然と言えます。その中国の国富の源となっている知的財産をさらに磨くために台湾の半導体業界が重要だとなれば、俄然、問題は単なる政治問題ではなく国家の存亡を巡る問題なのだということが分かります。

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