注目ポイント
24年総統選まであと1年。昨年11月の統一地方選(九合一選)で大敗を喫した与党・民進党では、副総統の頼清徳氏が新たに党主席(党首)に就任し、次期総統候補と目されている。一方、行政院長(首相に相当)には前副総統の陳建仁氏が新たに起用され、新行政院(内閣)が発足したが、「新味に乏しい」とのメディアの批判も。24年総統選に関する世論調査では、野党の候補者次第で与党の苦戦も予想されているだけに、新型コロナの初期水際対策で手腕を発揮した陳氏が新内閣で成果をあげられるかどうかが注目されている。
台湾で1月31日、陳建仁・行政院長(首相)が率いる新行政院(内閣)が発足した。蘇貞昌・前内閣の総辞職に伴うもので、蔡英文総統は残り任期が1年4カ月足らずとなる中、前副総統で側近の陳氏起用によって政権浮揚を図る。公衆衛生が専門の陳氏の行政トップとしての手腕は未知数だが、その執政の行方は来年1月に予定される総統選にも影響しそうだ。
行政院長は総統によって任命され、総統の施政方針を執行する役割を担う。政権運営がうまくいかない場合、総統を傷つけないためのスケープゴートとして交代させられることも多く、2016年の蔡政権スタート後も林全氏1年3カ月、頼清徳氏(現副総統)4カ月と短命だった。
18年11月の統一地方選で与党・民主進歩党が大敗した責任を取って頼氏が辞任したのを受け、同党重鎮である蘇氏が19年1月、行政院長に就任した。蘇氏は台湾の民主化以降では最長となる4年務めたが、昨年11月の統一地方選で民進党が再び大敗したため、引責辞任した。
後を継いだ陳氏は1951年生まれで、現在71歳。行政院衛生署長(現衛生福利部長=衛生相)だった03年には、台湾で感染が広まった重症急性呼吸器症候群(SARS)対策で陣頭指揮を執った。蔡政権1期目の16年から20年まで副総統として蔡氏を支え、新型コロナウイルス対策でも、専門家としての知見を生かして貢献した。敬虔なクリスチャンとしても知られる。
31日に行われた内閣引き継ぎ式には、新旧行政院長のほか、頼氏も出席。頼氏は「温厚で無私の精神を備えた陳院長は、台湾が直面している厳しい試練を乗り切り、コロナ後の社会や人々を癒してくれると信じている」とあいさつし、陳氏に期待を表明した。陳氏は「これが人生最後の公職になるので、信念を持って全力で取り組む。人民と子孫のために、温かい台湾を築いていきたい」と決意を述べた。
新内閣では、民進党の若手有望株の鄭文燦・前桃園市長が行政院副院長(副首相)に就任。 ただ、外交部長(外相)、経済部長(経済相)、交通部長(交通相)などその他の主だった閣僚の顔ぶれは変わっておらず、「人心一新」のイメージには遠いのが実情だ。有力者のかつての部下らが次官級などで入閣するケースも目立ち、台湾メディアでは、国難に向き合わず身内を重用した清朝末期になぞらえ、「皇族内閣」(台湾紙『中国時報』電子版1月31日)と皮肉る論調も見られた。
春節(旧正月)の休暇が明け、台湾政界ではこれから、民進党、最大野党・中国国民党ともに来年の総統選に向けた候補者選びが本格化する。民進党は蔡氏が既定の連続2期8年を務め、次は立候補できない。蔡氏は昨年11月の統一地方選大敗の責任を取り、党主席を辞任したが、その後任として党主席に就いた頼氏が、民進党の次期総統候補として有力視されており、蔡氏も昨年暮れの記者会見で後継者について問われ、ふさわしい人物として頼氏の名前を挙げるなど、後押しする構えを見せている。

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