2023-02-01 政治・国際

次期チェコ大統領が蔡総統と異例の会談中国の反発必至、EUは反応見守る姿勢

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注目ポイント

台湾の蔡英文総統は1月30日夜、チェコ大統領選に勝利した北大西洋条約機構(NATO)の元高官、ペトル・パベル氏(61)と電話会談したことを総統府が明らかにした。台湾の総統が、外交関係のない国の首脳や首脳当選者と直接会談するのは異例。中国の反発は避けられないとみられる。

パベル氏は約15分間の会談の中で、「台湾とチェコは自由や民主主義、人権尊重などの価値観を共有している」と述べ、台湾を信頼できるパートナーだと表明。台湾への圧力を強める中国に、「台湾が民主主義制度を維持し、権威主義の脅迫を受けないことを支持する」と強調した。

蔡氏はパベル氏の勝利に祝意を表明し、「緊密なパートナー関係を築いていきたい」と期待感を示した。

米政治専門サイト「ポリティコ」は、「次期チェコ大統領、中国の怒りというリスクを負い台湾のリーダーと会談」との見出しで報道。欧州連合(EU)は、パベル氏が〝中国の外交タブー〟を破ったことへの経済報復の行方を見守る姿勢だとした。

同サイトによると、EUの指導者らは、慣習として台湾政府との直接的な政治接触を避け、公式の交流を公務員レベルに制限。多くの場合は監視の下で対話を行っていると説明した。

中国の覇権主義を警戒してチェコの首都プラハで発足した多国籍シンクタンク「中欧・東欧チャイナ・オブザーバーズ」(CHOICE)の創設者イヴァナ・カラスコバ氏は、「パベル氏は選挙前のインタビューで、大統領に当選したら台湾を訪問するかどうかをたずねられた際、『はい』と答えた」と明かした。その上で、「EU加盟国の現職大統領が台湾を訪れることはめったにないため、この動きは前例のないものになるだろう」と述べた。

チェコのメディアによると、プラハ中国外交官はチェコ当局と「接触」し、パベル氏が台湾に電話をかけるのを阻止しようとしていたという。

EUの本部があるブリュッセルでは、外交官らが、中国政府がチェコに対して経済的報復手段を取るかどうかを慎重に見守っている。というのも、2021年に台湾との関係を強化したリトアニアからの輸入を中国が阻止した際には、EUは加盟国リトアニアのために、「中国は差別的な貿易措置を取っている」として、世界貿易機関(WTO)に提訴した経緯があるからだ。

一方、ポリティコは、パベル氏の動きが、前任者の親中政策からの大転換を示していると指摘した。13年に就任した現在のミロシュ・ゼマン大統領は、議会の有力議員との対立が深まる中、親中路線を推進してきた。

印象的な例として同サイトは、ゼマン氏が中国の新興エネルギー企業「中国華信能源」の元会長で大富豪の葉簡明氏をチェコ政府の名誉経済アドバイザーに任命したことを挙げた。その後、葉氏は18年に中国当局によって秘密裏に拘束され、今も行方不明だという。

国際問題の米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」の客員研究員ペトル・トゥーマ氏は、先日の大統領選挙では、「世論は中国に対する自国の立場に興味を示していなかったが、政界は違った」とした上で、反対派の政治家たちはゼマン氏から距離を置くため、同氏の親中政策を利用したと解説した。

ゼマン氏の任期満了に伴い、1月27、28日の両日に実施された大統領選の決選投票でパベル氏は、ゼマン政権で首相を務めたアンドレイ・バビシュ氏(68)を得票率58.3%で破り勝利。台湾との関係強化のほか、ロシアが侵攻したウクライナの支援強化を訴えている。3月に大統領に就任する。

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