2023-01-28 観光

ランドスケープ・デザインの眼で 台湾の美を再発見

注目ポイント

昆虫学者のエドワード‧オズボーン‧ウィルソンは、人間は生まれながらにして生物や生命のシステムに対する愛情(バイオフィリア)を持つとし、だからこそ自然にあこがれると述べた。いかにして自然環境と人との間に橋を架け、うるわしい交流を生み出すか、それがランドスケープ‧デザイナーの仕事である。

北投公園の事例を見てみよう。敷地内には地熱谷を源泉とする湧水があり、それが川となっているが、人間によって埋め立てられたり狭められたりしていて、川床の幅は3メートルしか残っていなかった。さらに道路にするために蓋をして暗渠にする計画まであった。チームが昔の写真と対比してみると、川床の幅はこれほど狭くはなかったため、周囲のセメントの河岸を取り壊し、堆積していたゴミを取り除き、日本の造園石組みの専門家を招いて川の本来の姿を取り戻し、さらに5つの小さな滝まで再生した。もともとゴミがたまっていて誰も近寄ろうとしなかった排水溝が、市民の憩いの場となったのである。

新竹の護城河親子公園の事例も見逃せない。本来の水のある風景がコンクリートで様変わりしていたのを、チームはブルドーザーや手作業で取り壊していった。「古跡の修復とまったく同じ規格です」と郭中端は言う。うれしかったのは、コンクリートを取り除くと玉石が出てきたことだ。これは日本統治時代の工事の跡である。現在のセメントによる護岸工事と比べ、昔は石を組むことで河川本来の生態と姿を守っていたのである。これは現在では生態工学と呼ばれる方法で、彼女がしばしば用いる手法の一つである。

「例えば大甲渓の堤防にも玉石が使われていますが、それだけで美しいと思います」と語る郭中端は、このような工法は現代のものではないと説明する。新竹新豊の赤毛堤にも新竹護城河(濠)にも同様の技術が用いられており、「先人の知恵には学ぶべきものがあります」と言う。

「八田与一紀念園区」の案件のために、郭中端は八田氏の子孫に話を聞き、修復後は一族が台湾の旧宅に集まった。(中冶環境造形顧問公司提供)

水に抗うのではなく、水に親しむ

中国文化大学景観学科教授の郭瓊瑩によると、四方を海に囲まれた台湾は海洋国家だが、河川や海の堤防、海岸道路といった大規模建設や公共工事においては安全性を優先させるため、人と海とが関わり合う可能性を断ち切ってしまいがちだ。人間が自然との「対抗」から「共生」へと考え方を変え、公共建設の中で海の生態の美と文化の美を融合させることこそ、真の海洋国家の精神と言える。

郭中端の設計には、まさにこのような特性がある。1986年、彼女は日本留学から帰国し、宜蘭県の冬山河親水公園の案件を請け負った。これが台湾での初めての仕事となり、ランドスケープ‧デザインのスタートとなった。冬山河の水は澄み、台北ではこれほどきれいな水は見たことがないと言う。この河川の護岸工事において、彼女は美しい水の流れを人々の日常のものとし、台湾における公共建設の新たなモデルを打ち立てた。そして今日称賛されている多数のランドスケープ‧デザイン——例えば「小京都水岸」と称えられる台中柳河水岸歩道や、河川を覆っていた蓋を取り除いて整備した雲林渓などのデザインも、すべて郭中端の影響を受けている。

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