2023-01-28 観光

ランドスケープ・デザインの眼で 台湾の美を再発見

注目ポイント

昆虫学者のエドワード‧オズボーン‧ウィルソンは、人間は生まれながらにして生物や生命のシステムに対する愛情(バイオフィリア)を持つとし、だからこそ自然にあこがれると述べた。いかにして自然環境と人との間に橋を架け、うるわしい交流を生み出すか、それがランドスケープ‧デザイナーの仕事である。

文・蘇俐穎 写真・林旻萱 翻訳・山口 雪菜

南寮漁港にある魚鱗天梯。なだらかな傾斜の堤防は人々に海に触れる機会をもたらした。

工業や海運が盛んな高雄。その都市部を流れる愛河の河口から3キロ上流の地点に、突然見渡す限りの緑が現われる。河岸にはマングローブの林があり、そこには虫や魚やエビ、カニ、水鳥が生息する。高度に開発された都心にこのような緑のオアシスがあることに驚かされる。

これはランドスケープ‧デザイナー郭中端の作品だ。建築学科出身の彼女は、景観デザインの道を歩んで30年余りになる。好んで困難にチャレンジし、これまでに多くの公共建設に携わってきた。冬山河親水公園、明池国家森林遊楽区、ユニバーシアードメイン会場、八田与一紀念園区など、都会から山間部まで、本島から離島まで、その作品がある。2021年、郭中端は国家文芸賞を受賞、まさに台湾のランドスケープ‧デザイン界の先駆けである。

郭中端は台湾のランドスケープ‧デザイナーの先駆者である。

より少なく、より古いものを

郭中端は、これまで荒れ地や悪地、放置されてきた建物などの「修復」を主に手掛けてきた。中都湿地公園もそうだ。ここは百年前は池で、マングローブの林が広がっていたが、都市開発のために少しずつ埋め立てられ、ただの荒れ地と化し、ゴミが投棄されるような場所になっていた。そうした中、高雄市に招かれた彼女は、自身の会社「中冶環境造形」のメンバーを率いて現地を視察し、その場で本来の景観を取り戻すという目標を立てた。まずゴミや廃土を撤去し、植物学者の郭城孟に協力を依頼して、その土地にふさわしい植物種を選び、本来の林相を再現していった。ここでは自然こそが主役であり、旅行者のための埠頭や吊り橋、公共教室などの施設は、適度に加えたものに過ぎない。

ここからもわかる通り、ランドスケープ‧デザインというのは建築とはまったく異なる。「建築は造形を重視しますが、景観は無形なのです」と郭中端は説明する。建築は無から有を生み出し、建築家の主張を打ち出すが、現代の景観の概念は、大規模な建設で破壊された環境を修復するというものだ。そのため、適度に施設は設けるものの、人間の活動と自然環境の全体的な統合の方を重視する。言い換えれば、物質が豊かで科学技術が発達した現在、ランドスケープ‧デザインは「人が天に勝る」という思考の逆を行き、自然を重んじるもので、現代の環境倫理にもう一つの思考をもたらすのである。

都会の中の中都湿地公園は、コンクリートジャングルのオアシスとなっている。(中冶環境造形顧問公司提供)

景観工学は考古学

こうした原則を堅持すると、作業には長い時間がかかる。郭中端によると、まず工事を始める前にチームは現地の歴史を綿密に考察しなければならない。古い文献を読み、現地のお年寄りから話を聞くなど、ランドスケープ‧デザインは、形の違う考古学のようなものだ。

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