注目ポイント
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナにとって〝ゲームチェンジャー〟に成り得る重戦車の支援をめぐり、英国が早々に主力戦車「チャレンジャー2」の供与を表明したのとは対照的に、ドイツは主力戦車「レオパルト2」の供与に慎重な姿勢を崩していない。ただし、ベアボック独外相は22日、同戦車を保有するポーランドなどがウクライナに提供することについては阻止しないと述べた。
また、米紙ワシントン・ポストによると、英国がウクライナに14両供与することを決めた主力戦車「チャレンジャー2」の車両数を大きく上回るレオパルト2が欧州各国に配備され、ウクライナの地形特性や補修管理の必要性を鑑みると、米国製主力戦車「M1エイブラムス」よりレオパルト2のほうがより適しているという。
実は20日、ラムシュタイン米空軍基地での会議でドイツは、レオパルト2の供与を発表するとみられていた。ところが、ふたを開けてみると、「国内でのさらなる検討が必要」だとするドイツ側の供与見送りという結論だった。
ウクライナ側を失望させる決定を伝えたピストリウス氏は、今月17日、辞任したランブレヒト国防相の後任として就任したばかり。同氏は以前、対ロシア制裁の緩和を支持していたこともある対ロシアの〝穏健派〟とされる。さらには、シュレーダー元首相と近い関係であることも指摘されている。
1998~2005年に首相を務めたシュレーダー氏は、昨年2月のウクライナ侵攻開始後、ロシアとのつながりを絶たなかったことが問題視され、ドイツ議会にある事務所の使用停止に追い込まれた。首相経験者は公費で運営する事務所を持つことが認められている。
シュレーダー氏はプーチン大統領と親しく、首相退任後はロシア産天然ガスをドイツに送るパイプライン運営会社の幹部やロシア国営石油最大手ロスネフチの会長などに就任し、巨額な報酬を得ていた。ウクライナ侵攻後もロシアの複数のエネルギー企業幹部にとどまったままで、国内外で批判が高まっていた。
春に見込まれる戦闘激化に備えて重戦車の提供を求めるドイツへの圧力が高まる中、ワシントン・ポスト紙は「ショルツ独首相は、一部の政界の盟友たちや有権者からの反対に直面し、政治的駆け引きの結果として健全な戦略を犠牲にしている」と指摘する。
同紙によると政府関係者は、米国のバイデン大統領がまずM1エイブラムスをウクライナに供与し、政治的土壌を作ればドイツはレオパルト2を供与する用意があることを示唆した。バイデン政権はこれまで同主力戦車をウクライナに送ることに躊躇(ちゅうちょ)していた。
というのも、巨大なガスタービンエンジンを搭載するM1エイブラムスの燃費は、整地で1リットル当たり240メートルとされ、レオパルト2の約半分程度。常に補給と補修が必要で、米国側はウクライナの戦線には適していないと判断したからだ。
もしそうだとしても、同紙は、「エイブラムス戦車を供与することが、レオパルト問題を解決できる突破口になるのだとしたら、バイデン大統領は同意すべき」とし、「この戦争で決定的局面となるウクライナへの軍事支援となるだけでなく、自由主義社会がこの長年の中で最も深刻な危機に直面している今、西側の結束を示すことにもなる」と訴えた。