2023-01-22 観光

現代にふさわしい図書館とは ―― 屏東県立図書館と台南市立図書館

注目ポイント

神殿を思わせる図書館を設計すると称えられたアメリカの建築家ルイス‧カーンはこう語った。「書籍が提供する価値は極めて貴重なものだ。この価値を誰が提供できるのかと言えば、それは図書館をおいて他にない」と。 ルイス‧カーンが1970年代に設計した図書館は、その時代を代表するものとなった。時代が変わっていく中、図書館が提供する読書と蔵書の機能は変わらないが、「公共性」は大きく変化している。この2年の間に、台湾で新たに開館した屏東県立図書館と台南市立図書館が、その問いかけに答えを出している。

文・曾蘭淑 写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

改築後の屏東図書館も、以前の建物と周辺環境のフレンドリーな関係を保っている。


2021年にリニューアルオープンした屏東県立図書館本館では、ガラスのカーテンウォールの壁面に屋外のクスノキの林が映りこむ。内部から外を見れば、青空と緑が目に入り、「森林図書館」とも呼ばれている。

実はこれは築30年になる建築物で、前身は屏東県立文化センターだった。改築前、屏東の人々がここを訪れるには、大連路から入って遠回りし、強い日差しを浴びながらヤシ並木の通りを歩き、さらにコンクリートの広場を通って、ようやく巨大な指令台のような中正図書館へたどり着くのだった。

螺旋階段をのぼっていくと、空間に施された工夫や配慮が一望できる。

世界の趨勢に応える

かつて全国でも重要な文化建築だった建物は、広さが不十分で設備も老朽化していたため、2018年に改築が始まった。

屏東県は6都のように豊富な予算や文化的リソースを持たないため、設計を請け負った建築家の張瑪龍は県長(知事)の潘孟安にこう提案した。新たに図書館を建てるより、改築の方法を採れば予算を削減できるうえ、従来の建物の特色と歴史的意義も残せ、文化の蓄積につながると。

建物の従来の構造を残して新たな生命を吹き込む。そうすることで膨大な建築廃棄物を出すこともなく、サステナビリティの概念にかなう。さらに、優れた建築にあたえられるプリツカー賞の受賞作が、この5年ほど目を引くランドマーク的な建物ではなく、気候変動や環境変化と人のニーズを出発点としている点にも呼応する。

こうしてサステナブル建築の理念を実践した屏東図書館は、従来の建物と周囲の環境との間にフレンドリーな関係を創出し、今年(2022年)、世界的に権威のある建築賞ArchitezerのA+Awardsの増改築部門人気賞と、図書館部門の佳作を受賞し、台湾の一地方の図書館が世界的に評価されることとなった。

屏東県立図書館の一角で本を読む市民。

ユーザー‧インターフェースの更新

「デジタルの時代である21世紀における図書館の機能とは?」という問いに対し、設計を担当した陳玉霖はこう答える。「私たちの結論は、図書館はデジタルメディアと競い合うものではなく、現代の図書館は美術館や博物館などほかの文化施設と競い合うものだということです」

このような競争の中で、どのように一歩抜きん出るのか。張瑪龍陳玉霖建築士事務所の設計チームは「ユーザー‧インターフェースの更新」という概念を打ち出した。OSを更新するのと同じように、現代のニーズに適応していくのである。

古い建築物に出来た新たなホールが陳玉霖の言うユーザー‧インターフェースである。ここにはカフェと誠品書店があり、展覧会や講座も開かれ、普段は図書館に縁のない人も訪れる場所となっている。

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