2023-01-23 政治・国際

【巨漢編集長のどすこい日記】② 春節に思う日台関係の変容

注目ポイント

The News Lens JAPAN編集長・吉村剛史が台湾海峡や国際政治、その他最近の気になる話題について語る不定期連載コラム第2回。

文庫は池上氏90歳の誕生日だった2001年1月16日、氏が寄贈した蔵書5000冊をもとに竹田駅近くに開館。高齢の池上氏本人はその開館式典に出席はかなわず、数か月後に他界したが、以後も池上氏を慕う地域の人々や日本人有志らが毎年1月16日前後の日を選んで周年記念行事を開催してきた。

池上一郎博士文庫の開館22周年記念式典(事務局提供・屏東県竹田郷)

今年の式典は1月14日に開催。ちょうど旧竹田駅舎や池上文庫を含む現駅舎隣接地一帯が整備工事中のため、現駅舎高架下が式典会場となったが、池上氏と生前交流があり、長らく池上一郎博士文庫理事長を務めてきた劉耀祖氏や、新たに理事長となった王陽宗氏ら日本語世代の方々との交流を深め、日本と台湾の絆の太さを思った。

旧竹田駅舎(筆者撮影・屏東県竹田郷)

「池上博士のお人柄や、博士が竹田へ寄せた親愛の情がどれほどであったかは、簡単には言いつくせるものではありません。尋常ではない強さ、深さでした」

体調不良にもかかわらず、ステッキにサングラス姿、医療用チューブを身にまとって会場に足を運んだ劉さんは静かに語ってくれた。

池上氏と生前親交があった劉耀祖氏(右)と現在の文庫理事長・王陽宗氏

式典には日本台湾交流協会高雄事務所の小野和彦所長(総領事に相当)らも出席。日本から駆け付けたシンガーソングライター・真氣さんの歌う台湾郷土歌謡「望春風」や、全員で斉唱した「ふるさと」「里の秋」などの唱歌・童謡が響く中、次第に少なくなっている日本語世代出席者のどこか寂しげで、しかし凛とした背中を目に焼き付けておこうと思った。

「望春風」を熱唱するシンガーソングライター・真氣さん(右奥)

日本への親愛の情が強く感じられる台湾社会だが、ここ数年、日本の国力低下に比例するかのように日本語学習者数は減少しており、日本語世代に代わって日本語学習者が重宝してきた池上文庫の存在意義も揺らいでいるのが実態だからだ。

池上一郎博士文庫外観(筆者撮影・屏東県竹田郷)
池上一郎博士文庫内部(片倉佳史氏提供)

とはいえ、日本と台湾の関係は、時代の波を受けて大きく変化しつつあっても、必ずしも後退しているというわけではなさそうだ。

コロナ禍直前の2019年、日台間の人的往来は初めて700万人台に達したという事実があり、日本からの修学旅行先としても台湾は同年まで3年連続でトップだった。23年の日台往来がコロナ前の水準にどこまで迫るか期待されている。

いや、コロナ禍の最中においてさえも、半導体で世界的シェアを誇るTSMC(台湾積体電路製造)熊本工場が2022年に着工し、24年に稼働予定。自治体レベルでの日台友好議員連盟も多数発足している。

台北駐日経済文化代表処横浜分処の張淑玲処長(領事)によると、TSMC以外でも日本に進出している台湾の半導体企業は10数社にのぼり、半導体後工程受託製造の世界最大手「日月光」(ASE)など、うち6社が神奈川県内に日本支社を置いているという。

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