注目ポイント
米ボストンの研究室でマウスを若返らせたり、老化させたりするという実験が行われている。年老いた盲目のマウスは視力を回復し、快活で若い脳に再生して、より健康な肉体と腎臓組織を取り戻した。反対に、若いマウスは急激に老化し、体のほぼすべての組織に壊滅的な結果をもたらしたというのだ。
米ハーバード大学ポール・F・グレン・老化生物学研究センターの共同所長デヴィッド・シンクレア教授(53)は、この実験は老化が可逆的なプロセスであり、「老化を自在に制御できることを証明した」と語った。その上で、人間の体も、再生させるきっかけとなる若さの〝バックアップコピー〟を保持しているという。
米CNNによると、米学術誌「セル」で先週発表されたこの実験結果をまとめた論文は、老化は「DNA(デオキシリボ核酸)を損なう遺伝子の突然変異の結果で、劣化や病気、死につながる損傷した細胞組織の〝ゴミ捨て場〟を作り出す」というこれまでの科学的検証への挑戦状だ。
シンクレア氏は昨年、CNNが共同開催した健康とウェルネスのイベント「Life Itself」の講演で、「それは〝ゴミ捨て場〟ではなく、単に損傷が老化を引き起こすものでもない」と強調した。
同氏は、「私たちはそれを情報の喪失だと考える」とし、「つまり、細胞が元のDNAの情報を読み取る能力を失い、機能しなくなることで、古いコンピューターがバグだらけのソフトウェアを作り出すようなもの。私はそれを加齢の情報理論と呼んでいる」と説明した。
DNAは体のハードウェアで、「エピゲノム」はソフトウェアだとシンクレア氏は言う。エピゲノムとは、DNAとは別に、親から子へ特徴を伝える仕組み。DNAは情報の保存や転写を確実に行うことができるが、エピゲノムはさまざまなストレスによる変化を受けやすく、傷ついたり劣化したりして情報が壊れることで、老化が引き起こされると同氏は考える。
多くのDNAが壊れ、あるいは損傷した場合、「細胞はパニックに陥り、通常は遺伝子を制御するタンパク質が、DNAを修復しなければならないことで混乱してしまう」と解説。「すると、全ての細胞は元の場所に戻ることができなくなり、時間の経過とともに、ピンポン玉が床全体に散らばってしまった卓球の試合のようになる」と表現し、細胞片は「家に帰れなくなる」と述べた。
だが、「驚くべき発見は、体にはリセットできるソフトウェアのバックアップコピーがあるということだ」とシンクレア氏。「(実験は)なぜソフトウェア(エピゲノム)が破損されるのか、細胞が若い時のようにゲノムを正しく読み取る能力を回復させるリセットスイッチを押して、いかにシステムを再起動するのかを示している」と続けた。
50歳であろうと75歳であろうと、体が健康であろうと病気であろうと関係ないとシンクレア氏は言う。そのプロセスが開始されると、「体は再生する方法を記憶し、たとえすでに年を重ね、病気を患っていても、再び若返る。ただ、そのソフトウェアが何であるかは、まだ分かっていない。現時点で私たちは、スイッチをオンとオフに切り替えることができることだけは理解した」と述べた。