注目ポイント
正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第14回目は、東京都台東区で代々受け継いできた故郷の味を大切にする「台湾茶房 家豆花」を紹介します。
老舗人形問屋をはじめ、おもちゃや花火、手芸用品などの専門店が多く集まる浅草橋。JRと地下鉄が乗り入れる浅草橋駅前の江戸通り沿いを2、3分ほど北上すると見えてくるのが、レトロな佇まいの台湾料理店「台湾茶房 家豆花」だ。
小ぶりなテーブルが3つに数席のカウンターでいっぱいの店内には、日本語と台湾語がにぎやかに飛び交っている。スタッフは全員女性で、店主の山岡さんに、山岡さんのお母さん、叔母さんのアンティーさん、そして親戚のイーちゃんの4人。50年ほど前、山岡さんのお祖父さんの代に台湾南部の屏東から浅草橋に移り住んできた一家で切り盛りしている。
2月末で3周年を迎える家豆花のスタートはひょんなことからだった。インタビューを引き受けてくれたアンティーさんによると、お気に入りだったお寿司屋が店仕舞いすると聞き、台湾料理のお店を開いてみようと、ふと思い立ったのだという。

反対意見は誰からも出ることはなく、ならばと勢いで店作りは始まった。水まわりやカウンター造りは業者に任せたが、それ以外の内装はすべて自分たちでDIY。実は、山岡さんたちの田舎=屏東の実家は「龔家古厝」と呼ばれ、古跡として指定されるような伝統的な古民家。台湾人でなくても懐かしさを感じてしまう“田舎のおばあちゃん家”をイメージして、内壁にあしらった木材をペイントしたり、たくさんの雑貨を取り寄せて装飾したのだそう。
世の中がコロナ一色の中で飲食店を始めただけに、「大変だね」と労いの言葉をかけられることもあるが、マスクや消毒が当たり前の時代しか知らないから「全然そうは思わない」とあっけらかんと笑う。

料理で大切にしているのは、自分たちの「おうちの味」に正直であること。例えば、ランチタイムの人気メニュー魯肉飯は、八角と紹興酒を使わないからあっさりとしていて毎日でも食べられそうな味わいだ。「八角を使ってないの?」と驚かれることもあるが、お味噌汁と一緒でそれぞれの家の味がある。だから、こだわりといっても自分たちの味をそのまま提供しているだけとアンティーさん。
おおらかなようでいて、手間暇をかけることは決して忘れない。店名でもある看板メニューの豆花でいえば、台湾から専用の調理機器を船便で取り寄せ、厳選した大豆を使って豆乳から手作りしている。

出来合いのものを使っているかどうかは台湾人なら一発でわかる。ごまかしは効かないからというが、食物アレルギーに配慮してピーナッツは入れず、日本の寒さに合わせて冬場には温かい豆花を用意するといった心遣いもうれしい。