2023-01-02 観光

台湾一の女神——媽祖の祭り

注目ポイント

旧暦の3月、台湾各地で年に一度の媽祖の祭典が行なわれる。多くの廟の媽祖が「進香」のために廟から出ると、通りでは住民がこぞって神輿をお迎えし、信者と触れ合う。中でも台中の大甲媽祖と苗栗県通宵の白沙屯媽祖の活動が最も有名で、ディスカバリーチャンネルは大甲媽祖の巡行進香活動を世界三大宗教祭典の一つとして紹介した。また2010年、文化部文化資産局は「大甲媽祖巡行進香」と「北港朝天宮迎媽祖」「白沙屯媽祖進香」を国定の重要民俗活動に指定した。媽祖信仰は世界的な無形文化遺産であり、台湾は世界の媽祖信仰の中心地なのである。

李美容によると、漢人社会では男性の神は権力を際立たせ、各地から参拝者が訪れることでその権威を示す。だが、媽祖は自ら練り歩くことで各地のリソースとつながりを持って影響力を発揮していく。漢人の社会では「男は外で働き、女は家を守る」ものとされてきたが、女性はもともとご近所との付き合いが得意で、近所や親族の間を行き来してリソースを交換すると林美容は分かりやすく説明する。漢人社会において女性がご近所付き合いをするように、媽祖の進香も村々を行き来してつながりを持ち、影響力を広げていくのである。「媽祖信仰がこれほど台湾で盛んなのは、父系社会において女性の生産力が肯定されてきたことを示しています」と言う。

旧暦の3月は人々が媽祖に熱狂する時期である。進香巡行で神輿が移動するに伴い、各地の人と事と物がつながっていくという意義がある。写真は2018年の白沙屯の神幸の様子。(林格立撮影)

自分の道を行く

「前世紀の台湾は現代化が進む中で、理性と科学の進歩という価値観が掲げられ、西洋の宗教と比べると、民間信仰は迷信的で遅れたもの、功利的なものとされてきました」と呂玫鍰は語る。だが2001年に彼女が白沙屯媽祖の進香活動でフィールドワークを行なった時、巡行の帰り道で、媽祖の隊列は通常通り西螺大橋を渡るのではなく、神輿の導きで濁水渓を歩いて渡ることとなり、それは歴史的な場面だったと言う。多くの人は「本当に歩いて渡るのか」と困惑したが、現地の信者たちは他の人々を率い、「怖がらないで。媽祖様のお導きなのだから問題ありません」と言ったそうだ。このような「信じる力」から、人々は次々と靴を抜いて互いに手を取り合い、助け合いながら流れの強い川床を歩いて進んだのである。「冷たい水の中で、私は手をつないでくれた人の温かさと善意を感じました。岸辺では風が起きて砂が舞い、人々がひざまずいて媽祖を拝む姿は、それは美しく、現場にいた人々はみな感動して涙を流しました」と呂玫鍰は当時の情景を語る。「これは信仰が一人ひとりの心に根付いていることを表しています」

最近は、媽祖の進香活動に参加する若い世代も増えており「一生に一度は体験したい」と言われるようになった。若者たちは写真や動画で進香の各シーンを撮影するが、彼らが注目するものは年配者とは異なる。呂玫鍰と一緒に参加した学生たちは、沿道で食べられる食事や、巡行の過程で足にまめができたらどうするか、などの経験をシェアしたという。「若い人が重視するのは『自分はここにいる』『自分はこう感じる』というコンテンツなのです」と言う。身をもって自分たちの文化を体験してこの社会を理解し、他の人々の暮らしを見てみようとすることは、己の文化に対する自信の表れなのである。

長年にわたって台湾文化を研究してきた林美容はこう語る。以前、台湾文化は常に抑圧されてきたが、1980年代に本土化運動が起こり、自分たちの土地に対する認識がようやく重視されるようになり、啓蒙が始まった。媽祖は台湾一の女神であり、媽祖信仰はすでに台湾人の暮らしと緊密につながっている。人々は旧暦の3月だけでなく、一年中媽祖を拝んでいるのである。多くの媽祖廟はそれ自体が一つの博物館とも言える。それぞれが建てられた時代の職人たちの技術や工芸と歴史が残されている。曲館(楽団)や武館(武術団)、陣頭(隊列の歌舞など)といった民間芸能も、媽祖信仰が盛んになるにつれて新しい様相を見せるようになった。林美容は、外国の友人にも、台湾を訪れたら必ず媽祖廟を訪れるよう呼び掛けている。年に一度の媽祖の祭りに参加して台湾庶民の暮らしと人情に触れ、台湾らしい神と人との交流に触れてほしいからだ。

媽祖信仰は台湾人の暮らしと緊密につながっており、廟の広場は地域住民の活動の中心となっている。(荘坤儒撮影)
台湾の媽祖信仰はエスニックや地域を超え、沿海から山地まであらゆる地域を守っている。写真は山間の金瓜石を練り歩く媽祖の隊列。
2001年に白沙屯媽祖の神輿が濁水渓を徒歩で渡った時の写真を示す呂玫鍰。これは歴史的な出来事であり、今もその感動を忘れられないと言う。
年に一度の媽祖の進香に参加すれば、台湾の庶民の暮らしと深い人情に触れられ、台湾の神と人との関係を体験できる。
信者たちが手作りした「結縁品」は、媽祖との御縁と、人と人とのつながりを象徴し、媽祖の慈悲と善の心を分かち合うものだ。
媽祖信仰は台湾の暮らしに根を下ろしており、台湾は世界の媽祖信仰の中心地でもある。


転載元:台湾光華雑誌

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