注目ポイント
正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第13回目は、東京都板橋区で、手作りの本格台湾料理を通販方式で提供する「ハッピー夢工房」を紹介する。
2021年に開業した「ハッピー夢工房」では、手作りした台湾料理を出来たてのまま真空パックでお届けし、台湾グルメの発信基地として着実にファンの輪を広げている。ただオーナーの竜川媛(タツカワ ヒメ)さんによると、今のようなかたちで事業を始めたのは、周囲の人たちや環境に導かれるようにたどり着いた、思いもよらない必然だったのだという。

台南出身の竜川さんが日本にやって来たのは1985年。先に来日していたご主人に続き、台湾の大学を卒業してすぐに留学で来日したとのこと。その後日本で20年近くにわたって和食関連のキャリアを積み、調理師免許も取得した竜川さんが、日本の食文化として非常に魅力を感じたのが“飾り巻き寿司”だったという。「こんなものが作れるんだ」と、その芸術性に感激し、自らその技術を習得してインストラクターの資格を取得。すると周囲からいろんな声が掛かるようになり、まずは近所の寺院からの依頼を受けて、飾り巻き寿司の教室を開催するようになったのだとか。

すると今度は、海外から日本にやってくる外国人を支援する企業から声がかかり、観光体験ツアーの一環として、自宅で飾り巻き寿司の教室を開催するようになったという。そして、その頃から並行して、今の事業につながる台湾料理の教室もスタートさせていたのだとか。いずれも大好評で一日2回開催する教室のすべてが定員をオーバーになるほどの人気だったという。

そして、そんな竜川さんのビジネスが現在のスタイルに移行するきっかけとなったのがコロナ禍だ。海外からの観光客が来られなくなったことで、飾り巻き寿司教室が休講となり、また、台湾料理教室も人の集まりが制限されるようになると、今度は「あの味が食べたい」と、教室で教えていた台湾料理の宅配を求める声が一気に増えてきたのだという。するとそのタイミングで、広いキッチンの取れる現在の店舗に空きが出て、何とも自然な流れで現在のビジネスがスタートしていったのだという。

竜川さんがオンラインショップを通じて提供するのは、肉粽(ちまき)や大根餅、バーワンなどといった伝統的な本格台湾料理だ。すべての料理は注文を受けてから調理を開始し、真空パックや冷凍便にしてお届けしている。すべて一人で手作りしており、またメニューのほとんどが台湾直送の食材や調味料を使用しているため、その時々で注文を受けられるものと、受けられないものがあるのだという。
