注目ポイント
全世界の製造量の半分ほどのリチウムは中国で加工・精錬されているうえで、中国企業が米 の対中チップ制裁への対抗手段として、積極的に産業の川上、リチウムの産地である鉱山や 塩湖を買収しようとしている。
米中のテック戦争がエスカレートの様相を呈している。米国は中国のAI、5G通信、低軌道人
工衛星などの産業へのチップ供給に制限措置を講じているのに対して、中国は電気自動車
に不可欠なリチウムイオン電池の原料、リチウムの供給に躍起になって支配しようとしている
。各地のリチウム鉱山を買収して、リチウムを用いてチップ制裁に対抗する構図が見えている
。
大規模なリチウム買収を進める中国
英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』によると、中国は長年積極的にリチウムの鉱山を買収し
てきた。中国のリチウム採掘量は豪州、チリに続く世界3位で、世界シェアは13%に留まって
いるが、精錬量の世界シェアは5割以上も占めている。
記事にはバイデン大統領の発言が引用されて、ミサイルや電気自動車などの新エネルギー
関連製品の製造に精錬産業が必須なので、米は鉱物精錬における中国の依存度を減少さ
せようとしているという。
米のチップ制裁に対して、中国の対抗手段はリチウムの鉱山を掌中にすることだ。例えば、
中鉱資源、盛澤鋰業、蔵格鉱業などの中国企業がカナダの鉱業企業、パワー・メタルズやリ
チウム・チリ、ウルトラ・リチウムなどの欧米企業に出資参加しようとしているのは、中国の対
抗策の一環だ。
また、中国のウェブメディア『澎湃新聞』は2021年、中国の電気自動車大手の比亜迪(BYD)
がアフリカの6つの鉱山の権益を取得したと報道した。取得した6鉱山の鉱石量は25百万トン
以上、炭酸リチウム換算で1百万トンに達するという。
贛鋒鋰業も2021年、1.9億ポンドで英鉱業企業、Bacanora Lithium社の全株式を取得したと
宣言した。Bacanora Lithium社を買収する前に、すでに豪州、アルゼンチン、アイルランド各
地合計5鉱山の採掘権や独占販売権を保有している。
次世代の白いダイヤであるリチウムを積極的買収する国策
非鉄金属のレアメタルであるリチウムは精錬によって、様々な塩化リチウム製品を製造するこ
とが可能で、一般的に結晶化ガラスの配合剤やグリースとして利用される。軽いうえにエネル
ギー効率が高いため、電池原料としては最適だ。
世界的に気候変動が進む中、世界中でNET、ネット・ゼロカーボン社会を実現する機運が高
まるにしたがってリチウムの需要が急増している。リチウムの生産方法は主にペグマタイトと
かん水という2つの種類に分けられる。ペグマタイトの場合、リシア輝石とリチア雲母が媒体に
なる。メリットとしては回収技術の成熟度が高い、採掘のコストが低い、品質が安定するという
点が挙げられる。かん水から回収する場合、湖底堆積物から抽出するのが難しい。

© AP / 達志影像
2022年10月24日、チリのアタカマ砂漠で炭酸リチウムを含む塩湖が発見された。チリの化学
メーカー、ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ(Sociedad Quimica y Minera de Chile)は
世界中で上昇する炭酸リチウムのニーズを満たすため、採掘事業を拡大している。
現在独自に採掘のできるリチウム鉱床が希少なうえ、堆積岩型の鉱床は通常リチウムの含
有量が乏しく、かつ貯留の形式が多様なため、有効的に回収するのが難しい。各鉱業大手企
業はかん水型鉱床の膨大な総含有量に魅かれて、回収技術も進んだため、かん水型鉱床を
保有することには戦略的意義がある。
リチウム加工の世界シェアは5割以上
2021年12月20日公開された中国非鉄金属工業協会の報告によると、中国で過去10年間に
消耗された炭酸リチウムは5万トン以下だったが、現在は年間20万トン以上増加し、世界消
費量の6割を占めている。年間増加率は20%を超え、2025年には100万トンを超えると見込
まれる。
中国のリチウム資源は天斉鋰業、塩湖株式社会、寧德時代(CATL)、贛鋒鋰業、洛陽モリブ
デン、比亜迪(BYD)に支配されている。リチウムの生産集中度は95%にも達しているが、中
国以外、豪州、チリ、アルゼンチンでも生産されている。豪州は生産技術が先行しているので
、主要な供給国として55%の世界シェアを保有している。
リチウムの加工に関して、中国贛鋒鋰業と天斉鋰業の世界シェアは合わせて26.3%だ。リチ
ウムイオン電池の正極材によく使われている「リン酸鉄」と「三元」の生産量も中国企業が大
宗を占めている。電気自動車に関して、比亜迪(BYD)の出荷台数はテスラを超えて、電気自
動車業界をリードする勢いだ。
ただし、中国のリチウム産業は世界的な優勢を確保したというわけではない。中国資産情報
が発表した2022年リチウム産業研究報告によると、リチウム製品の主なサプライヤーは欧米
企業だ。中国の川下産業はまだ発展途中で、企業をグローバル化する能力が欠けている
中国がリチウム産業を発展させる上でもう一つの障害は人件費の値上がりだ。労働集約型
産業のリチウムイオン電池製造を展開するため、中国は人口ボーナスが消えた現状に直面
させられている。もう一つの課題はナトリウムイオン電池の急浮上だ。リチウムの需給が極め
て厳しいなかで、同じく第一族元素でアルカリ金属のナトリウムは標準電位、比容積、元素存
在度とも高いことで注目されつつ、いつかリチウムイオン電池産業を覆す可能性がある。今
後、電池原料の奪い合いは熾烈になっていくのは間違いない。