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正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第12回目は、台湾のソウルフードの一つである麺線をはじめとした庶民的な台湾料理店を提供する「麺線屋 formosa」を紹介する。
その昔、台湾を初めて見たオランダ人が思わず呟いた“美しい”という意味の“formosa(フォルモサ)”。台湾を象徴するそのワードを店名に冠した「麺線屋formosa」は、田園都市線の二子新地駅から徒歩約5分の住宅街にある。街道からお店に向かう路地に一歩足を踏み入れると、台湾料理独特の豊かな香りが鼻をくすぐり、思わず食欲のスイッチが条件反射してしまう。
おしゃれなカフェのような外観と、大きなカウンターをメインとしたバーを思わせる店内は、一般的な台湾料理店とは全く異なった印象を受けるが、所々に散りばめられた台湾デコレーションとのコラボがとても新鮮で、なおかつ何とも居心地がいい。

台湾最南端の屏東(ピントン)出身である陳俞嫃(チン ユウテイ)さんが「麺線屋formosa」をスタートさせたのは2015年1月。10代の頃から日本に住み、家族や親戚の住む台湾には頻繁に行ったり来たりしている陳さんであるが、自分自身の生活の拠点となった日本で、これからもずっと台湾と関わる仕事をしていきたいと考えていたのだという。当初は得意の語学を活かして通訳になろうかと勉強もされたとのことであるが、いつしか導かれるように、料理に対する思い、さらには台湾の日常食として欠かせない麺線へのインスピレーションが沸々と湧いてきたのだという。

陳さんいわく、その頃は台湾がどこにあるかすら分からない人も多く、麺線にいたっては、全くといっていいほど知られていなかったとのことであるが、「日本の人は知らないだけで、食べたら絶対好きになる」と、自らの閃きを信じ、チャレンジに意欲を燃やしたのだという。そしてまずは一人で味を研究し、さらに味を極めるために台湾に戻り、専門家の元でレシピの試行錯誤を続けてきたという。

陳さんにとっての味の基本は、自分が幼い頃から食べてきた味、そして自分が食べたい味だ。台湾にはそこにしかない独特の風味があり、留学や仕事などで日本に住む台湾人には、どうしても食べたくなる味があるのだという。だからこそ、そんな台湾人にとっての拠り所にもなって、ちょっと食べただけでも元気になってもらえるような場所を作りたかったのだという。

開店当初は、麺線と台湾の国民食ともいえる魯肉飯(ルーローハン)だけのスタートであったが、お客さんからの“あれも食べたい、これも食べたい”とのリクエストに応えながら、今ではメニューも30品目にもおよび、陳さんはその都度自ら味を試行錯誤し、納得できない時は何度も台湾に通いながら一つひとつのレシピを究めていったのだという。