2022-12-24 観光

地域の文化とつながる 町の新たな中心地―― 古い市場の再生

注目ポイント

どの国でも、ランドマークとなる建築物は優れた建築家が腕を競う舞台となる。しかし、地域の人々にとっては日常生活と直接かかわる公共空間こそ、共感を呼ぶ存在である。市場というのは庶民の文化において重要な役割を果たすもので、台湾の多くの古い市場は次々と装いを新たにしている。設備面も大幅に向上しているが、過去の市場とは具体的に何が違うのだろう。

文・蘇俐穎 写真・林旻萱 翻訳・山口 雪菜

新竹の南寮漁港にある波光市場。

台北の魚市場の横にある「上引水産」に行くとまず活魚が目に入る。ここは市場ではないが、鮮魚から惣菜、青果から花材まで揃っており、食事コーナーもある。ここは建築家である盧俊廷にとって最も市場らしい場所だ。

商品は新鮮で活気があり、食欲がわく、というのが市場の基本条件だが、これ以外に市場はどんなイメージを伝えられるだろう。オランダのロッテルダムにある前衛的な市場Markthalは大胆なアーチ状の建物で、オフィスと公共住宅と市場の機能を備える。これまでの市場のイメージを覆し、未来都市のビジョンを描き出した。また、新竹の南寮漁港にあるシンプルな「波光市集」は、建築家‧林聖峰の作品で、洗練された波状のラインが背景の海と呼応し、芸術性を際立たせる。

これらの空間が人々を引き寄せるのは、市場としての充実した機能のほかに、そのデザイン性である。だが、これまで三つの市場を手掛けてきた建築家の盧俊廷に、市場建築に期待するものを問うと、答えは思いがけず地に足の着いたものだった。彼は、観念や理想を追求するより、自分の作品は「誰もが理解でき、親しみやすく、市民に好かれるもの」であってほしいと考えている。

公共建築を得意とする盧俊廷は、すでに三つの市場建築を完成させている。

四角い箱を開ける

盧俊廷が主宰する建築事務所は開業11年、これまで介護センターや学校、市場などの公共建設を手掛けてきた。個人の邸宅より「公共建築は利用者が多く、多くの人が訪れるので、とりわけ達成感があります」と語る。彼はこれまで三つの公有市場を設計してきた。代表的な桃園市中壢の第一市場、2020年に落成した林口市場、そして現在改築中の桃園龍潭市場である。

盧俊廷が言う「わかりやすく、親しみやすい」とは、利用者の立場から考えると「人間味がある」ことと考えられる。例えば、数年前に取り壊された台北市の建成圓環は、車が激しく行き交うロータリーの中央に建てられた巨大な円形の建築物だった。建物は全面ガラス張りで密閉され、外から入る動線が少なく、中に留まる人も少ないため、ついに取り壊しとなったのである。

こうした前例があり、今日の建築家は、密閉された市場空間をいかに開くかを考えるようになった。現在建設中の台北南門市場の場合、建築家の張清華と郭英釗が率いる「九典聯合建築士事務所」チームによる図面を見ると、12階建ての巨大な建物だ。大量のガラス張りの壁面を採用し、羅斯福路と南海路の交差点に面した鋭角の部分は、壁面はなく、食事ができるテラスの空間になっており、市場のにぎわいと屋外のにぎわいが一体化している。

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