2022-12-11 ライフ

連載「あの街の“正港台湾料理店”」第10回:台南茶寮(東京都中央区)

注目ポイント

正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第10回目は、昭和の面影を残す茅場町のオフィス街で台湾南部を中心とした伝統的な台湾料理を提供する「台南茶寮」を紹介する。

地下鉄の茅場町駅から徒歩約2分の「台南茶寮」は、夜だけの営業のため昼間はオフィス街の一角に自然と溶け込んでいる。店内はまさに台湾の料理屋さんという雰囲気で、何といっても迎えてくれた店主の小林令佳(コバヤシ レイカ)さんの優しい笑顔にホッとする。

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もともとは、台湾果物の販売拠点としての店舗であったが、スペースをうまく活用して憩いの場が作り出されている。

台南出身の店主の小林さんが「台南茶寮」をオープしたのは2008年2月。結婚を機に日本にやってきた小林さんであるが、当初は銀座のデパートで高級婦人服の販売の仕事をされていたとのことで、バブルの時代で面白いように売れたと当時のエピソードも語ってくれた。その後は現在のお店の場所で、台湾産の果物の販売を始めたのだという。その頃、台湾の果物は今ほど日本で認知されてはいなかったものの、贈答用としても珍重され、今でも根強いお得意様がいるのだとか。ただ果物は季節ものでもあり、また毎日行う仕事でもないので、オフィス街という地の利も活かし、現在の店をスタートさせたのだという。

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オーナーの小林さん。料理だけではなく台湾の風土や文化、そして「今はまだ内緒」といいながら、これからのお店での試みについても教えてくれた。

自分には料理の腕はないと語る小林さんであるが、その人柄からか、とても腕のいいシェフに恵まれてきたのだという。小林さんによると「もともと体に染み付いた味の感覚の違いかもしれない」とのことで、日本人でも中国人でも、台湾人以外の人が台湾料理の作り方を覚えても、なかなか本物の味を再現するのは難しいのだとか。そういった意味でも、今の日本で台湾料理のシェフを探すのは、お店同士の競争も激しく、大変困難なことなのだそうだ。

皿の上の料理

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ニンニク醤油ベースのタレに、シジミを漬け込んだ鹼蛤。台湾産のシジミが入手できた時のみ提供できる貴重な逸品。

現在、小林さんを支えるシェフは、これまでも数ある有名店で腕を振るってきた大ベテランで、今でも幾多のお店から誘いを受ける有名人なのだとか。しかし、小林さんを慕って台南茶寮の厨房を守ってくれているのだそうで、「彼がいてくれたから、コロナを乗り越えてまた頑張ってみようと思えた」と嬉しそうに語ってくれた。

皿の上の料理

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一度食べた人は、また必ず注文するという酔鶏。台湾の紹興酒に漬け込んだ鶏肉の食感とまろやかな味わいがやみつきになる。

小林さんが大切に思う台南料理とは、決して大袈裟な料理ではなく、屋台料理に代表されるように、“ちょっとした”料理であり、当たり前にいつでも食べられる料理。そして胃に持たれない、優しい味なのだという。だからお店で出す料理も、あれもこれもたくさんのメニューを取り揃えるのではなく、毎日でも食べたくなる台湾料理の原点ともいえる品目を選び、心を込めてお出ししていきたいのだという。

皿の上のピザ

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台湾家庭料理の定番、台湾玉子焼き。絶妙な焼き加減や味はもちろんのこと、その“香りごと”美味い。

オフィス街という立地であることから、コロナ禍の影響は大きかったというが、常連さんをはじめ、わざわざ探して、この味を求めてやってくる人がたくさんいてくださるのだという。また、特に宣伝などをしているわけではないが、一度でも台湾に駐在経験のあるビジネスマンなどは、どうしても台湾の味が恋しくなって、すがるような思いでここにやってくるのだとか。

テーブルの上にあるスープ

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寒い季節に向けて新たにメニューに加えるという麺線。カツオの効いた抜群のダシ加減に身も心も温まる。
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