2022-12-07 政治・国際

インドネシアが婚前・婚外交渉禁止法を可決 経済団体、コロナ禍からの回復に「水を差す」

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注目ポイント

インドネシア議会は婚前・婚外交渉を禁止するなど、大幅な刑法改正案を可決した。違反者には最長1年の懲役刑を科すことになる。この動きに、人権団体は「国民の自由を制限するもの」だと反発し、経済団体は海外からの観光客や投資に悪影響が出るとの懸念を示した。

さらに、「インドネシアの民主主義は死んだ」と憤り、「これは透明性や民意を無視したプロセスを反映し、刑法の反民主的な改正だ」と議会を批判した。

改正法はまた、避妊の促進と宗教的冒涜(ぼうとく)は違法であることを強調。「人工妊娠中絶は犯罪」だとしているが、2004年の医療行為法に従い、胎児が生後12週未満であることを条件に、生命を脅かす病状を持つ女性とレイプ被害者の例外を認めている。

今回の刑法改正では、現職大統領と副大統領、国家機関、国家のイデオロギーを侮辱することの禁止を復活させた。現職大統領に対する侮辱は、大統領自身が報告し、違反者には最大、懲役3年が科せられる。つまり、大統領など対象者が主観的に「侮辱」と受け取れば、罪が成立する可能性がある。

独立ジャーナリスト連合(AJI)インドネシアのサスミト・マドリム会長は、改正法が報道の自由を抑制すると述べ、「共産主義の拡散」「死者への名誉毀損」「指導者批判」などを犯罪行為とする17の条文を特に問題だととらえ、「改正法はジャーナリストを刑務所送りにする可能性がある」との懸念を示した。

また、ガーディアン紙によると、人権団体は、「宗教的寛容で長い間称賛されてきたこの国で、世俗主義が憲法に明記され、原理主義への移行が進んでいることを今回の改正法が強調している」と批判した。

米人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のインドネシア担当上級研究員アンドレアス・ハルソノ氏は、同法は非現実的であるため、選択的に施行される可能性があると指摘する。インドネシアでは同棲している未婚カップルが「数百万人いる」ことを根拠として挙げた。同氏はまた、改正法が「特定の警察官が賄賂を強要することを助長することにもなりかねない」と述べた。

刑法改正に反対する抗議活動は、19年に全国に拡大した刑法改正反対デモの規模と比べ、はるかに小さかったという。ハルソノ氏は、「国民は抗議行動に疲れ果て、改正案の採決はあっという間に行われた」と説明。ただ、「過去3年間見てきた限りでは、改正法は再び変更されるのではないかと思う」と推測した。

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