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インドネシア議会は婚前・婚外交渉を禁止するなど、大幅な刑法改正案を可決した。違反者には最長1年の懲役刑を科すことになる。この動きに、人権団体は「国民の自由を制限するもの」だと反発し、経済団体は海外からの観光客や投資に悪影響が出るとの懸念を示した。
今週可決された改正法は、インドネシア人はもちろん外国人にも適用され、未婚カップルが同棲することも禁止される。議会の与野党全政党が賛成票を投じた。ただ、改正法の施行規則を作成するため、今後3年間は発効しない。
これに対し、同国の経済団体などは、海外からの観光客や投資への悪影響が出ると警告。インドネシアの観光業界団体幹部は、経済と観光が新型コロナウイルス禍から回復し始めているさなか、「完全に水を差す」ものだと批判。また、人権団体は市民の自由を取り締まり、イスラム教原理主義への行き過ぎた移行だとして反対している。
法案の採決にあたり、ヤソナ・ラオリー法務・人権大臣は議会で、「われわれは重要な問題や異なる意見を受け入れるため、議論を尽くしてきた。だが、刑法改正については歴史的な決定を下し、受け継いだ植民地時代の刑法と決別する時が来た」と述べた。インドネシアの刑法は植民地時代に制定されたもので、政府は2019年に刑法改正案の議会通過を目指したが、全国的な抗議運動によって阻止されたという経緯がある。
今回の改正法では、婚外の性交渉は最長で懲役1年、未婚カップルの同棲は同6か月の刑に処せられるが、起訴は配偶者、両親、または子供が提出した警察への報告に基づくという。
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル・インドネシア」のウスマン・ハミド理事長は、「婚前・婚外交渉の非合法化は、国際法で保障されているプライバシーの侵害」だとし、「合意の上の性交渉は刑法違反や〝倫理〟違反として扱われることがあってはならない」と述べた。
連立与党の一つ、ナスデム党のタウフィク・バサリ下院議員は、例えばバリ島を訪れた旅行者がインドネシア人と同意の上でセックスをした場合、インドネシア人の親または子供から警察に通報されると、その旅行者は逮捕される可能性があると指摘した。
同議員は、「観光に影響を与えることは承知している。そのため、警察への通報は家族が本当に重要だと感じる場合のみに限定すべきであることを国民に説明する必要がある」とした。その上で、「国会議員として、私はこれらの条文を実施するにあたり、さらなる制限を求めていく」と語った。
英紙ガーディアンによると、インドネシア法律扶助研究所のシトラ・レファランダム所長は6日、首都ジャカルタにある国会議事堂の外で行われた小規模な抗議活動に参加。改正法の下では、「女性は服装によって処罰される可能性がある」とし、「国民の怒りは高まるだろう」と述べた。