注目ポイント
正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第11回目は、夜市のグルメとしておなじみの大鶏排を看板メニューに掲げる「鶏&デリ浅草 台灣廣場」を紹介。
2022年の暮れが押し迫る中、東京随一の観光名所・浅草寺に賑わいが戻ってきた。境内のそば、浅草公会堂の目の前に店を構える「鶏&デリ浅草 台灣廣場」にも、観光のあいまに小腹を満たそうとインバウンドや日本人観光客がひっきりなしに訪れている。
食べ歩きが好きなら、店名を聞いてピンと来る人がいるかもしれない。実はこのお店、都内でもっとも長い商店街として知られる戸越銀座商店街の人気唐揚げ店「鶏&デリ」の姉妹店なのだ。

オープンはコロナ禍真っ只中の2021年6月。台湾の夜市の定番メニュー・大鶏排(ダージーパイ)は2019年ごろから日本でも専門店を見かけるようになったが、店長の黄アキコさんによると、主力メニューにした理由は「アメリカでの大鶏排人気」がヒントになったという。
そもそも大鶏排のルーツは1970年代の台湾。台北・西門町でアメリカ南部のソウルフードであるフライドチキンを参考にした頂呱呱炸雞店(T.K.K. Fried Chicken)がオープンし、1980年代には台湾全土にフライドチキンチェーン店が広がった。
そして、1990年代になると鶏肉を叩いて大きく伸ばし、香辛料で味付けしてカリカリに揚げる台湾オリジナルのフライドチキン=大鶏排が夜市のグルメとして定番化。移民によって海外にも伝わり、近年、台湾料理への関心が高まっている米国では、南部伝統のフライドチキンや韓国ルーツのフライドチキンとその覇権を争うまでの存在になっている。
さまざまな食文化が入り混じる米国での大鶏排人気を見てきたからか、台灣廣場の大鶏排はあえて「完璧な台湾の味付け」にしていない。香辛料に不慣れな人にも配慮して五香粉の香りは控えめ。物足りなければ、本場の夜市同様に取り揃えたシーズニングフレーバーを使い、自分好みの味を楽しんでもらうというスタンスだ。浅草周辺は台湾出身者が多く暮らすエリアだが、日本の生活が長くなった彼ら彼女らの舌には、台灣廣場の味付けのほうが本場よりしっくりくることもあるそうだ。


オープンから約1年半。コロナ禍で浅草から観光客が消え、テイクアウトやフードデリバリーでしのいでいるあいだにも、おいしい台湾料理を味わってもらいたいとスタッフ同士で盛り上がり、メニューは増えに増えた。
魯肉飯や鶏肉飯、台湾QQ球といった定番から、日本はおろか台湾でも珍しくなった昔ながらの黄色いカレー、大ぶりなモチモチの皮で餡を包み、たっぷりの肉汁を閉じ込めた焼き小龍包まである。上海が本場の焼き小龍包だが、店長の黄さんの故郷・高雄では専門店に行列ができるほどの人気グルメ。それならばとメニューに加えたのだという。