2022-12-02 政治・国際

トガリネズミの脳が季節で収縮するメカニズム アルツハイマー病など治療に有効な可能性

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注目ポイント

エサが不足する真冬に備えるため、多くの野生動物は動きを鈍らせたり、冬眠したり、暖かい場所に移動する。ところがトガリネズミという全長わずか5cmほどの小動物は特異だ。寒い季節を乗り切るため、この動物は自分の脳を〝食べ〟、臓器を4分の1まで減らし、暖かい春になると再び脳を成長させるというのだ。そのメカニズムを解明することで、アルツハイマー病などの難病治療に役立てるという、画期的な可能性が浮上している。

季節によって動物が脳やその他の器官が収縮したり、膨張したりすることは「デネル現象」と呼ばれ、気温が下がるとカロリーを消費する組織を減らすことができる。研究者たちはイタチや、最近ではモグラなど、小型で高代謝の哺乳類の頭蓋骨に季節的な収縮があることを発見した。

だが、米紙ワシントン・ポストによると、多くの専門家は、トガリネズミの信じられないほどのレベルで縮小する脳は、単なる生物学的好奇心以上のものだと驚愕する。この動物がどのようにして脳を回復できるかを理解することは、アルツハイマー病や多発性硬化症などの神経変性疾患を治療するのに役立つ可能性があるというのだ。

「最初は全く理解することができなかった」とデンマーク・オールボー大学でトガリネズミの脳を変化させる化学現象を研究するヨハン・デルク・ニーランド助教授は述べ、「トガリネズミの反応と、反応の仕方は本当に驚くべきものだ」と付け加えた。

ワシントン・ポスト紙によると、これまで何十年もの間、ポーランドの動物学者アウグスト・デネルによる1949年の偉大な発見である「デネル現象」の意味を理解した科学者はほとんどいなかった。

ワルシャワで生まれたデネルは、ポーランド軍に勤務しながら、戦時下も研究に専念した。ドイツ人に捕らえられた後も、捕虜収容所で生物学の講義を行っていた。戦後、研究室に戻ったデネルは、ポーランドとベラルーシの国境にあるビャウォヴィエジャの森で捕獲したトガリネズミの頭蓋骨が季節により収縮したり、膨張したりしていることに気付いた。

高代謝のトガリネズミは、生きるため、昆虫やクモ、ナメクジ、ミミズなどを常に追いかけている。この小動物は哺乳綱真無盲腸目に分類され、ネズミ類とは程遠く、モグラに近い動物だ。アフリカ大陸から、南北アメリカ大陸、ユーラシア大陸など世界中に分布。人間の聴覚を超えたハイピッチで鳴き、反響を聞いて地下を移動する。

シカやクマとは異なり、トガリネズミは小さ過ぎて長距離は移動できず、また過敏過ぎて冬眠できない。一生は短く、平均寿命は1年強だ。「(ほかの哺乳類のように)彼らの代謝は減速するように設定されていない」とドイツのマックス・プランク動物行動学研究所の行動生態学者ディナ・デックマン博士は指摘する。

デックマン氏のチームはトガリネズミを使った実験を続けているが、飼育下での研究は非常に困難だという。トガリネズミは毒を持った数少ない哺乳類の一種であり、猫や他の捕食者から身を守るため、イタチなどと同じように悪臭を放つ。そんなトガリネズミを季節に順応させるために、研究チームはケージを屋外に置いている。

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